近年、暗号資産(仮想通貨)に関するニュースなどで「スマートコントラクト」や「ブロックチェーン」といった言葉を耳にしたことがある方もいるかもしれません。これらの技術は暗号資産のみに使用されるものではなく、足元で発展しつつあるWeb3の基盤技術をさしています。
この記事では、スマートコントラクトの仕組みや、スマートコントラクを活用したサービス事例をわかりやすく解説します。
スマートコントラクトとは
スマートコントラクトとは、ある契約や取引について、決められた条件がそろったときに、所定の処理が自動的に実行される仕組みです。現在では主にブロックチェーン上で実装される技術として知られています。
スマートコントラクトは、もともとブロックチェーンとは関係なく提唱された考え方でした。1997年に法学者・暗号学者のニック・サボ氏が「プログラムできる契約」という概念を提唱したことが始まりです。「プログラムできる契約」とは、特定のトリガーで契約を自動執行させることを意味し、自動販売機の例でわかりやすく説明されています。「決められた金額の入金」と「商品選択」という条件がそろうと、自動で飲みものが提供されるシステムがスマートコントラクトというわけです。
2014年にイーサリアムのブロックチェーンにスマートコントラクトを実装する提案がなされました。それ以降、スマートコントラクトといえばブロックチェーン上の概念・技術として世間に認識されるようになりました。
スマートコントラクトとイーサリアムの関係
イーサリアムとは、暗号資産ETH(イーサ)を基軸通貨とするブロックチェーンです。スマートコントラクトとイーサリアムの関係について理解するために、まずブロックチェーンについて解説します。
ブロックチェーンとは、経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」によると「一つ一つの取引履歴(ブロック)が1本の鎖のようにつながる形で情報を記録する技術」のことを指します。ブロックチェーンはさらにプライベート型とパブリック型に分けられます。パブリック型ブロックチェーンは、「分散管理」といって管理者が不在で、複数の主体がデータを保持しているため、情報の改ざんが極めて難しく、安全性が高いといわれています。この技術を活用したのが暗号資産です。
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
イーサリアムは、ブロックチェーンにスマートコントラクトの技術も組み合わせているのが特徴です。これによって、取引履歴という静的な情報をブロックチェーンに書き込むだけでなく、契約のプログラム記述が可能になります。プログラムが特定の条件を満たしたと判定したとき、取引が自動執行されます。
イーサリアムは通貨の送金という契約だけではなく、各種事務手続きや、ゲーム・アプリ開発までも可能という汎用性を備えています。
イーサリアム以外の有名な暗号資産として、ビットコインが挙げられます。ビットコインは、イーサリアムと違って根幹技術にスマートコントラクトを採用しておらず、基本的には静的な取引履歴をブロックチェーンに書き込む仕組みです。また、イーサリアムのような汎用性はなく、暗号資産のやりとりのみをおこないます。
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
スマートコントラクトのメリット
スマートコントラクトを活用することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
契約にかかるコストと時間を節約できる
スマートコントラクトは、特に金融取引や資産管理において、従来の手続きを大幅に自動化・効率化できます。
従来の契約や取引では、煩雑な手続きや仲介者による確認などが必要でした。一方スマートコントラクトでは、条件がそろったときの契約の実行や、その後の確認がすべて自動でおこなわれます。そのため、契約や取引にかかる時間と、仲介者に払っていた手数料を削減できるといわれています。
さらに、スマートコントラクトは少額の取引や頻繁な取引を効率的に処理できます。例えば、IoTデバイスによる自動支払いや、マイクロペイメント(少額決済)など、従来のシステムでは手数料や処理時間の面で非効率だった取引も実用的になります。これにより、インターネット上での新しい取引形態や、ビジネスモデルの創出が期待されています。
不正や改ざんに対する耐性が高い
スマートコントラクトは、従来の契約システムと比較して、不正や改ざんに対する耐性が高い仕組みを持っています。プログラムによって自動実行される性質上、契約実行時の人為的な操作や介入のリスクを低減できます。
また、取引の履歴が複数のネットワークで分散して記録されているため、取引成立後の記録も改ざんすることが技術的に困難です。これにより、従来のシステムと比べて高い安全性を実現しています。
透明性の確保
スマートコントラクトのソースコードは一般的に公開されており、高い透明性を持つことが特徴です。ソースコードが公開されることで、契約や取引のルールを誰でも検証できます。ただし、コードの理解には専門知識が必要であり、また公開されているコードに脆弱性が含まれる可能性もあるため、セキュリティ監査など適切な検証プロセスが重要となります。
スマートコントラクトの活用事例・実装例
具体的なスマートコントラクトの活用事例や実装例を紹介します。
Uniswap(DEX)
Uniswapは、ブロックチェーン上につくられたDEX(分散型取引所)のひとつです。2024年10月時点で、DEXのなかでもトップレベルの取引高を誇ります。
DEXとは、企業が運営する中央集権的な暗号資産取引所とは異なる形態の取引所です。取引の実行や価格決定がスマートコントラクトによって自動化されており、従来の取引所で必要だった仲介業務や管理業務が大幅に削減されます。これにより、運営コストが抑えられ、取引手数料を低く抑えることが可能となっています。
Uniswapは2018年にイーサリアムチェーンをベースに開発されました。需要が高まるにつれ、ネットワーク手数料の高騰や処理速度の低下といった問題が発生し、2024年10月時点では、イーサリアム以外のいくつかのブロックチェーンでも稼働しています。
Uniswapは、AMM(自動マーケットメイカー)というシステムを採用しています。AMMの仕組みは以下の通りです。
- 流動性プール:ユーザーが暗号資産を預け入れて作る取引用の資金プール
- 取引の仕組み:取引者はこのプールと直接資産を交換。従来の売り手と買い手をマッチングする方式は使用しない
- 価格決定:プール内の資産比率に基づいて、アルゴリズムが自動的に取引レートを計算
- 流動性供給:プールに資産を預け入れることで、取引手数料の一部を報酬として受け取ることが可能
参考:金融庁「分散型金融システムのトラストチェーンにおける技術リスク等に関する研究」研究結果報告書
MakerDAO(暗号資産担保型ステーブルコイン)
MakerDAOは、イーサリアムブロックチェーン上のプロジェクトで、暗号資産DAI(ダイ)を発行する「Makerプロトコル」を管理しています。MakerDAOでは、スマートコントラクトを活用し、収益の分散や意思決定、インセンティブの設計などが自動的におこなわれています。これによって、効率よく透明性の高い組織運営が実践されています。
DAOとは、分散型自律組織のことです。経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」によると「組織の理念に賛同する者が、意思決定に関与できる機能を有したガバナンストークンを保有(≒出資)し、組織運営に参画」するものと説明されています。
OpenSea(NFT・NFT二次流通プラットフォーム)
OpenSeaは、世界最大規模のNFTオンラインマーケットプレイスです。取引の実行やNFTの所有権移転にはスマートコントラクトを利用していますが、プラットフォーム自体は中央集権的に運営されています。デジタルアート、音楽、トレカなど豊富な種類のNFTを取り扱っており、その点数も膨大です。いくつかの有名コレクションが販売されていることで、さらに注目が集まっています。
OpenSeaはアメリカに拠点を置くサービスではありますが、ETHを購入しウォレットに接続すれば、誰でもどこからでもマーケットに参加できます。ユーザーは、作品を購入するだけでなく、自分自身がクリエイターとなりNFTを作成し販売することも可能です。
OpenSeaには、クリエイター向けの収益構造が組み込まれています。NFTが転売される際、取引価格の一定割合(通常2.5%〜10%)がクリエイターに自動的に支払われます。この「クリエイターロイヤリティ」と呼ばれる仕組みにより、作品の人気が高まり取引が活発になるほどクリエイターの収入も増える持続可能なモデルを実現しています。従来のデジタルコンテンツ販売では難しかった転売収入の確保が可能となり、新しい創作活動の経済的基盤となっています。
STEPN(NFTゲーム・ブロックチェーンゲーム)
STEPNは、NFTのデジタルスニーカーを使って歩いたり走ったりすることで暗号資産を稼げるブロックチェーンゲームです。2022年に大きな注目を集めた「Play to Earn(プレイして稼ぐ)」の流れを受け、運動することで報酬を得られる「Move to Earn(運動して稼ぐ)」という新しいカテゴリーを確立しました。ユーザーの運動データはアプリで記録・管理され、スニーカーNFTの所有権管理や報酬トークンの発行には、Solanaブロックチェーン上のスマートコントラクトが使用されています。
ゲーム内でスニーカーを購入するためには、SOLをはじめとするいくつかの暗号資産のうち、いずれかを所有している必要があります。そして、SOLをゲーム内の独自暗号資産であるGMTに交換することで、スニーカーを購入できます。スニーカーNFTの価格は変動し、もっとも流行していた2022年中頃には日本円で数万円〜数十万円の資金が必要でした。
ゲームの基本的な仕組みは以下の通りです。
- 運動の記録:GPSで移動距離と速度を測定
- 報酬の計算:運動データに基づいてGST(ゲーム内通貨)で報酬を付与
- メンテナンス:スニーカーNFTは使用に応じて摩耗し、GSTを使用して修理が必要
- アップグレード:より高い報酬を得るためにスニーカーの性能を向上可能
STEPNでは、これらの活動に複数の種類の暗号資産(SOL、GMT、GST)が使用されます。各通貨の交換はDEX(分散型取引所)を通じて行われ、市場の需要と供給に応じてレートが変動します。
スマートコントラクトのリスクと課題
1. スケーラビリティ問題
スマートコントラクトを実装したブロックチェーンの利用者が増えると、処理速度が低下したり、手数料が高額になったりする課題があります。これをスケーラビリティ問題といいます。
ブロックチェーンでは、取引の正当性を確保するために、多数の参加者がデータを検証・共有する必要があります。この分散型の合意形成プロセスにより、一つの取引の確定に時間がかかり、システム全体の処理能力が制限されます。例えば、イーサリアムの場合、1秒あたり約15件程度の取引しか処理できません。
2. 法的課題
スマートコントラクトと既存の法制度との整合性には、以下のような具体的な課題があります。
- 契約の有効性:プログラムコードが法的な契約として認められる範囲
- 準拠法の問題:国境を越えて実行される取引の法的管轄
- 責任の所在:プログラムの不具合による損害の責任帰属
- 消費者保護:自動執行される契約におけるクーリングオフの扱い
2020年に設立された一般社団法人スマートコントラクト推進協会では、これらの課題に対する実務指針の策定を進めています。
3. 契約変更の技術的制約
スマートコントラクトによる契約変更には、特有の技術的課題があります。
- 不変性:一度デプロイされたコントラクトは原則として変更不可
- アップグレード方法:変更可能な設計にする場合、複雑な実装が必要
- データの永続性:ブロックチェーン上のデータは原則として削除不可
- プライバシー:公開された情報は半永久的に参照可能
特に個人情報の取り扱いについては、EUのGDPRなどのデータ保護規制との整合性が大きな課題となっています。
4. セキュリティリスク
スマートコントラクトには以下のような具体的なセキュリティリスクが存在します。
これらのリスクに対処するため、コードの監査やフォーマル検証といった対策が重要となっています。
スマートコントラクトの将来性
スマートコントラクトは、Web3エコシステムの基盤技術として、以下のような分野での革新的な応用が期待されています。
1. デジタル資産の新しい活用形態
- クリエイターエコノミー
- デジタルアートの二次流通における自動的なロイヤリティ分配
- 音楽・動画のマイクロペイメントによる従量課金
- ファンコミュニティへの特典付与と権利管理
- デジタル所有権の細分化
- 不動産や高額美術品の部分所有権取引
- 知的財産権の共同保有と収益分配
- 限定商品の所有権の時間単位での共有
2. 新しいビジネスモデルの創出
- トークンエコノミー
- サービス利用者への貢献度に応じた報酬分配
- コミュニティガバナンスへの参加権付与
- 早期支援者への自動的な特典付与
- 分散型金融(DeFi)の進化
- 複雑な金融商品の自動執行
- クロスボーダー取引の効率化
- リアルタイムの決済・清算システム
3. 社会インフラへの応用
- サプライチェーン管理
- 生産・流通過程の透明性確保
- 品質保証データの改ざん防止
- 自動的な支払い処理
- 公共サービス
- 行政手続きの自動化
- 投票システムの透明性向上
- 公共記録の信頼性確保
4. 既存の課題解決に向けた発展
- 技術的な進化
- スケーラビリティの改善(レイヤー2ソリューション)
- プライバシー保護技術の統合
- セキュリティ監査ツールの高度化
- 制度面での整備
- 法規制との整合性確保
- 業界標準の確立
- 国際的な規制枠組みの構築
これらの可能性の一部は既に実証段階に入っており、特にDeFiやNFT分野では実用化が進んでいます。今後は、技術の成熟とともに、より広範な産業分野への応用が期待されます。ただし、これらの革新的な応用を実現するためには、技術的な課題の解決と並行して、適切な規制環境の整備も重要となります。
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