サプライチェーンに「ブロックチェーン」を導入するメーカーが増えてきました。しかし、ブロックチェーンは比較的新しい技術です。敬遠するメーカーも少なくありません。
そこで、本記事ではブロックチェーン技術をサプライチェーンに導入した場合のメリット、さらに導入方法と導入事例について紹介します。
目次
ブロックチェーンとはなにか?
ブロックチェーンとは、個人間のネットワークであるP2Pネットワーク上で運用できる「分散型台帳技術」です。取引をブロックに分けて記録し、ブロック同士が鎖で繋がれたように連なってネットワーク上に存在し、ユーザー達が相互に管理・運営していきます。透明性の高い記載内容・高いセキュリティがブロックチェーン技術の大きな特徴です。
システムにもよりますがブロック同士の取引を承認する場合には、直前の取引のハッシュ値を参照しなくてはいけません。「ハッシュ値」は一方向にしか変換できない不規則な文字列で、非常に複雑な暗号です。自力で解読するのはほぼ不可能といわれています。悪意のある改ざんや捏造(ねつぞう)ができません。
サプライチェーンとはなにか?ブロックチェーンとの違い
サプライチェーンとブロックチェーンは「チェーン」と同じ言葉が使われているものの、完全に別物です。
サプライチェーンとは「モノの流れ(物流)」を指します。また、サプライチェーンを管理・最適化する運用を「サプライチェーンマネジメント(SMC)」といいます。原料の調達から、製造・納品に至るまでを情報をデータ化し、効率的な仕組みを作り上げることが目的です。
メーカーによってサプライチェーンはさまざまですが、大きく調達、生産、販売・物流、返品と4つのプロセスに分けられます。各プロセスを最適化すれば、顧客満足度の向上や利益向上にも繋げられるでしょう。
サプライチェーンの課題
売上や顧客満足度の観点からも、サプライチェーン構築は重要です。しかし、積極的に導入されない理由も少なからず存在します。
課題1.各支部で独自のシステムを確立し、一元化しにくい
自社内で各部門が分かれているメーカーでは、各部門が独自のシステムや情報を採用しているケースが多いです。メーカーの規模が大きくなるほど部門間の意思疎通がうまくいかず、システム統一が難航することも珍しくありません。
各部門が長年築き上げてきた考え方・方法を捨て去らないといけないため、自社内の大きな意識改革が必要です。SCM担当者だけでは、大きな負荷がかかることが予想されます。社長・役員などの経営層や、リーダーシップがある人が率先してプロジェクトを進める必要があるでしょう。
課題2.全てのサプライヤーのシステムを統一できない
サプライチェーンを構成する全てのサプライヤーで、システムや情報を統一することが理想です。しかし現実は難しく、関連会社(他社)のシステムを変更するのは容易ではありません。システムの導入コスト・運用に伴う教育・メンテナンス・故障時の保障などの責任範囲を明確するのは、非常にセンシティブな問題です。
課題3.導入コストがかかる
全てのサプライチェーンを統一する場合、さまざまな面でコストがかかります。一般的にシステム開発をおこなうだけでも、数か月で800万円〜1,200万円程度かかるといわれています。資産が潤沢な企業であれば問題ありませんが、中小企業になれば導入・運用コストのほうがはるかに高くなってしまいます。
課題4.IoT化が十分に進んでいないメーカーでは問題が発生しやすい
IoT化が十分に進んでいないメーカーでは、各プロセスでの情報が全てデータ化されていません。リアルタイムな情報がサプライチェーンのシステムに反映されていない場合には、生産管理などの意思決定する職場が判断を間違えてしまう可能性が高くなります。SCM導入には、各プロセスの情報をデータ化する必要があることに留意してください。
課題5.リスクを想定したサプライチェーンを構築しにくい
本来であれば、リスクマネジメントをおこなった上でサプライチェーンを考慮したいものです。しかし、予測不能な自然災害・感染症・社会情勢を正確に予測するのは不可能です。全てのリスクに対応しようとすれば、システムが複雑になります。くわえて、導入コストが膨大になるため、現実的ではないと考えるのは自然の流れです。
ブロックチェーンをサプライチェーンに導入するメリット
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
ブロックチェーン技術は国内でも認知されるようになりましたが、新しい技術で導入を踏みとどまるメーカーも少なくありません。しかし、サプライチェーンにブロックチェーンを導入すれば、業務効率が大幅にアップするだけではなく、事業を拡大できる可能性を秘めています。ここでは、サプライチェーンにブロックチェーン技術を導入するメリットを紹介します。
メリット1.高いトレーサビリティ
資材のコスト・資材調達までの時間・製造工程の歩留率・運送時間などをデータ化して追跡可能性を上げ(トレーサビリティ)、サプライチェーンに組み込めば、各工程にかかる時間や状況が把握できているため、再現性の高い生産計画を組むことができ、高いトレーサビリティが実現します。
また、透明性の高いブロックチェーンとサプライチェーンの相性がよく、リアルタイムの正確な情報を反映できます。さらに資材調達の情報をデータ化しておけば品質問題が発生した際に、迅速に原因調査や応急対策が期待できます。
高いトレーサビリティ性は顧客満足度を向上させ、永続的な企業経営を可能にするでしょう。
メリット2.物流のコストや時間を削減できる
効率的なサプライチェーンを構築すれば、物流のムリ・ムダ・ムラがなくなります。生産計画が予定を立てる場合に不確定な机上データで生産計画を立ててしまうと、資材担当者・製造現場・トラックの運転手などに過剰な負荷がかかる結果に繋がります。
他方、現場の過剰な負荷を恐れて、大幅な余裕がある計画を組むケースも少なからずあります。結果、リードタイムが長くなり、先方からの不満に繋がります。
SCMにブロックチェーンを導入すればリアルタイムでの情報が反映されるため、効率的な生産計画や発注業務ができます。大幅なリードタイム短縮が狙えるだけではなく、無駄な労力やコストが激減するでしょう。ムリ・ムダ・ムラがない職場は、働きやすい職場にも直結します。
メリット3.過剰在庫や欠品、廃棄を防げる
生産工程での余剰生産や資材欠品は、メーカーにとってロスそのものです。場合によっては、経営状態の危機的状況に繋がる可能性もあるでしょう。ブロックチェーンは、ユーザーが情報を共有し合ってシステムを運用します。誰かひとりが間違った情報を台帳に記載しても、ほかのユーザーが修正できるため組織全体でのミスが減ります。
SCMによって需要予測ができれば、機会を損失することが少なくなります。適切な発注業務・在庫管理ができるようになり、利益向上に繋がるでしょう。
メリット4.得意先・消費者・自社の情報漏えいを防げる
ブロックチェーンは、改ざんや情報漏えい対策に長けた仕組みです。高いセキュリティで消費者や得意先、さらには自社の機密情報なども守ります。
ブロックチェーンはハッキングに対しても強い仕組みです。特定の権限を持った機関は存在せず、情報を分散して管理しています。データにアクセスするには、全てのブロックにアクセスする必要があり、全ての暗号を解かなくてはいけません。ブロックチェーンの暗号は非常に複雑なため、突破するのは容易ではありません。ハッキングによる情報漏えいも現実的ではないでしょう。
NFTとの組み合わせによる業務拡大
教材やノウハウなどのデジタル商材をNFT化をすれば、ネットワーク上で取引が完結します。さらに、暗号資産・トークンによる決済方法と組み合わせれば、透明性の高い取引が可能です。仮にユーザーのネットワーク環境が変わってしまったとしても、コンテンツは容易に復元できるため、ユーザーの満足度も向上するでしょう。
サプライチェーンにブロックチェーン技術を導入した事例・適用シーン
ブロックチェーン技術は比較的新しい技術でありながらも、物流業界ではすでに運用が開始されています。リアルタイムで正確な情報を把握できるブロックチェーン技術で大きな成果を上げているメーカーを紹介します。
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
事例1.ウォルマート(Walmart)
米国の大手小売チェーンであるウォルマートは、食料品・家電製品・衣料品・スポーツ用品など幅広い商品を取り扱っています。米国最大級の規模を持ち、世界有数の小売企業です。
ウォルマートの特徴は、徹底した物流管理によるコスト削減です。その低価格戦略の過程で、食品調達の経路が複雑化し、品質問題発生時の追跡が困難になりました。
この課題解決のため、ウォルマートはサプライチェーンにブロックチェーン技術を導入。食品関連の問題への迅速な対応と食品偽装防止が可能になりました。これはブロックチェーンの特徴である高い透明性と改ざん耐性によるものです。
参考元:Blockchain in the food supply chain – What does the future look like?
事例2.ニトリホールディングス
家具・生活雑貨小売業の「ニトリグループ」の物流部門を担う「ホームロジスティクス」もサプライチェーンにブロックチェーン技術を導入しているメーカーです。
同メーカーは多くの運送会社と取引をおこない、年間の物流量は810万件を超えています。ただ、受注・発注業務を電話やFAXでおこなっていたため、紛失や転記ミスが発生していました。
そこで、ブロックチェーン技術を導入し、受注・発注業務のロスを改善。運送会社ごとに車両や担当者スキルをデータ化してブロックチェーン上で共有した結果、効率的なサプライチェーンを確立できました。
参考元:https://www.coindeskjapan.com/38412/
事例3.デンソー
デンソーは国内の自動車部品メーカーであり、モビリティ向けのバッテリーも製造しています。デンソーが抱えている問題は「車用電池のトレーサビリティ」です。車用電池は原材料の調達と再利用を行う必要があり、対応が急がれていました。
そこで、自社独自のサプライチェーン「バッテリーパスポート」を作り上げます。二次元コードとブロックチェーン技術を組み合わせ、電池製品の寿命を追跡・管理します。現在は試作システム開発を終えて、量産・事業化に向けてプロジェクトを進めています。
参考元:https://www.denso.com/jp/ja/driven-base/tech-design/blockchain_2/
サプライチェーンにブロックチェーンを導入する方法
自社開発
自社でブロックチェーンを開発する場合、開発言語とプログラミングの専門知識は必要ですが、独自のシステムを構築できます。技術的なハードルが高い場合は、既存のシステムの利用を検討できます。また、近年は、導入が容易で費用対効果の高いブロックチェーンサービスが増加しています。
外部委託
プログラミング技術が社内にない場合、システム開発会社への委託が一般的な選択肢となります。ただし、IT知識が不足している場合、適切な開発会社の選定が課題となります。効果的なシステム構築のために、IT専門のコンサルティング会社の活用も検討に値します。
サプライチェーンにブロックチェーンを導入できるシステム開発メーカー
サプライチェーンとブロックチェーンを結びつけられるシステム開発メーカーを紹介します。
NTTテクノクロス
「NTTテクノクロス」はNTTグループに所属するシステム開発会社です。 2015年からブロックチェーン技術に着目し、ソリューションの提案をおこなってきました。業界問わず、さまざまなメーカーが抱える悩みをブロックチェーン技術でサポートをしています。ブロックチェーン技術をすぐに活用して結果を出したいメーカーや、システム開発の検証コストを抑えたいメーカーに向いています。
株式会社システナ
システナは国内のIT関連メーカーで、携帯電話向けソフト開発・技術支援をおこなうメーカーです。ブロックチェーン技術を用いた物流会社・運送会社向け運行管理サービス「mobican」を開発し、サプライチェーンの管理をおこないます。
ブロックチェーンを活用して理想のサプライチェーン構築
技術の進歩に伴い、次世代のネットワークWeb3は身近なものになってきました。ブロックチェーン技術を導入すれば、社内外で理想のサプライチェーンを構築できる可能性があります。透明性の高い記載内容は、経営者や担当者の素早い意思決定を可能にします。売上・利益向上に直結することでしょう。
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