ブロックチェーンはWeb3の根幹となる技術で、その市場規模は2020年から2021年のわずか1年でおよそ10倍に急成長しています。事業環境の整備がさらに進めば、価値あるイノベーションの創出を大いに期待できる分野です。
本記事では、ブロックチェーン市場拡大の要因とネガティブ要因をそれぞれ解説します。活用事例も紹介しているため、事業戦略の検討にぜひお役立てください。
目次
日本国内のブロックチェーンの動向と市場規模
ブロックチェーンを中心としたWeb3領域への投資は、国内でも注目を集めています。国内主要ベンチャーキャピタルを対象に実施された調査によると、投資を強化したい分野でWeb3・NFTが2位になっています。
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
実際に、国内の大手企業も続々と市場に参入しています。例えばSoftBankはWeb3領域に60億ドル以上を投資しており、LINEや楽天はNFTマーケットプレイスを提供しています。
しかし、大手企業のWeb3事業の多くはプライベートチェーンに留まることが多いのが現状です。プライベートチェーンとは、自組織内でのみ管理を行うブロックチェーンを指します。
反対に、ビットコインなどのブロックチェーンは、パブリックチェーンと呼ばれ、改ざんが困難であったり、分散性があり第三者を必要としない取引が可能であるなどのメリットがあります。一方で、ユーザー保護にかかるコストが高い点や、権利侵害が発生した際の救済が困難である点、何らかのトラブルが起きても巻き戻しが行いにくい点などといったデメリットがあります。
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
ブロックチェーンのメリットや革新的な点は、主にパブリックチェーンに代表される機能です。そのため、プライベートチェーン上のみにサービスの提供が留まると、従来のデータベースとほとんど差がないといった意見もあります。また、グローバル市場へのアプローチが難しいといった課題もあり、今後の展開に注視する必要があると言えるでしょう。
世界のブロックチェーンの動向と市場規模
世界的に見ると、2021年頃からWeb3分野への資金調達は急増しています。2020年に35億ドルだったWeb3企業の資金調達額は、わずか1年後の2021年には300億ドルを超えました。
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
投資領域については、暗号資産取引所などの金融領域から、インフラ領域やゲーム領域にシフトしてきています。
日本国内の法規制・税制の動向
現在、日本でWeb3事業を展開するとなると、諸外国に比べ事業者への暗号資産規制が厳格であり、比較的難易度が高い状況であるといえます。
主な論点として、金融規制と税制の2つが挙げられます。
金融規制
日本は世界に先駆けて利用者保護規制を導入しており、2016年に暗号資産交換業者の登録制を開始しました。また、2019年には利用者資産を原則オフラインで管理させるなど、規制をさらに強化しています。このように利用者保護に関する法規制を充実させたおかげで、FTXを巡る騒動では日本の顧客資産の流出を防げました。
しかし、規制導入時には存在していなかったアプリケーションやトークンが次々と台頭してきています。これらに対し、資金決済法や金融商品取引法がどこまで適用されるのか不明確といった課題が挙げられています。
また、暗号資産は複雑・多様化してきており、そもそも法規制上の暗号資産に該当するか不明確といった課題もあります。この点については金融庁が解釈指針を策定予定のため、今後の動向に注目です。
税制
税制上の課題は、法人税と個人所得税の2つの領域に分けられます。
法人税制上の課題として、暗号資産の期末時価評価課税が挙げられます。期末時評価課税とは、法人が期末時点で暗号資産を保有していた場合、市場価格で評価して課税対象とする制度です。現状では発行者が自己保有するものだけでなく、投資家が保有する暗号資産も時価評価し課税対象とされています。
未実現利益への課税は資金が早期に枯渇する原因となり、結果として国内での事業継続が困難になると言われています。課税を避けるため、スタートアップ企業がシンガポールなど海外へ流出しているのが実情です。この点について、政府は他制度との整合を図りながら見直しをします。
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
個人所得税については、暗号資産の取引にかかる所得の区分が問題となります。現状では暗号資産取引で得た所得は雑所得に区分され、最大55%の総合課税となっています。一方で、上場株式などの先物取引は20%の申告分離課税です。この点について、所得区分を見直して分離課税を適用するよう、日本暗号資産ビジネス業界からも要望が上がっています。
また、暗号資産に対する課税割合は、海外の所得税制と比較しても高い水準にあります。例えばアメリカやイギリスはキャピタルゲインへの課税で最大20%、ドイツは暗号資産を1年以上保有していれば原則非課税です。
国名 | 課税上の取り扱い | 最大税率 |
日本 | 雑所得 | 55% |
アメリカ | キャピタルゲイン課税 | 20% |
イギリス | キャピタルゲイン課税 | 20% |
ドイツ | 原則非課税(1年を超えない場合はキャピタルゲイン課税) | ‐(1年を超えない場合は45%) |
株式には貯蓄を投資に回して経済を好転させるという政策的要請がある一方で、暗号資産は資金決済法上では「決済手段」として位置づけられている背景があります。
個人・法人に関わらない問題としては、暗号資産同士の交換や、DeFiの利用での課税ルールの問題もあります。現状では、暗号資産同士を交換した時点の利益にも課税されるため、DEXなどの取引や手数料収入なども細かく申告する必要があり、手続きの煩雑さがWeb3の発展を妨げているとの声があります。
政府はこうした制度設計の違いに留意しながら、妥当性を検討していくとしています。
ブロックチェーンの社会的インパクトと活用事例
ブロックチェーン技術が与える社会的なインパクトとして、次の5つが挙げられます。
- 文化経済領域における産業振興
- 個人向け金融商品の多様化による経済活性化
- 社会課題解決の促進
- 個人のエンパワーメント
- 組織の在り方の多様化
具体的な活用事例を交えて順番に解説します。
文化経済領域における産業振興
ブロックチェーン技術は、文化経済領域において大きな経済価値を発生させます。例えば、NFTアートは初期販売時だけでなく、販売されるたびにクリエイターに一定の収益を還元させることが可能です。
また、AxieInfinityやSTEPNなど、ブロックチェーンを活用したゲームも開発されています。これまでにない新たなエンタメ性を提供し、ゲームユーザーの拡大につながる可能性があるため、業界でも注目されています。
個人向け金融商品の多様化による経済活性化
ブロックチェーン技術を活用すれば、金融商品をトークン化して販売できます。三菱UFJ信託銀行は、個人投資家が小口で不動産信託受益権を購入できるプラットフォーム「Progmat(プログマ)」を構築しました。(※2023年10月に三菱UFJ信託銀行から独立済み)
個人投資家向けの金融商品は、権利移転管理などのコストが大きく販売が難しいとされてきました。しかし、ブロックチェーンで権利移転などを一括で管理を行えばコストを削減できるため、販売が可能となります。
個人投資家向けの金融商品のトークン化が進めば、投資や経済の活性化に繋がります。
社会課題解決の促進
NFTやトークンは、自治体やNPOの新たな資金調達やコミュニティマネジメントの手法として注目されています。新潟県の「山古志村DAO」は、NFTアートを購入した人をデジタル村民とし、山古志村住民会議への参加を可能にしています。NFT売却で得た資金は地域プロジェクトに活用される構想です。
山古志DAOでは約800人のリアル村民に対して、デジタル村民は1,000人を超えています。過疎化が進む地方でも、関心を持つ人々がグローバルに集まってコミュニティを形成すれば活気を取り戻せるかもしれません。
ブロックチェーンを基盤にした技術は、地方創生などの社会課題の解決に貢献できる可能性を秘めています。
個人のエンパワーメント
パブリックブロックチェーンには、中央管理者が存在しません。そのため、これまで参入障壁があった領域にも個人が容易に参入できます。
小学3年生のZombie Zoo Keeper氏は夏休みの自由研究でNFTアートを制作し、英語で発信を続けました。世界中のNFT購入者から注目を集めた結果、現在では取引高がOpenSeaで120ETHを超えています。従来の市場では考えられない成果です。
また、金融包摂が十分に進んでいない途上国においても、DeFiやブロックチェーンゲームを通じた資産形成を促す効果が期待できます。
組織の在り方の多様化
ブロックチェーンの浸透により登場した新たな組織形態として、DAOが挙げられます。DAOは、ビジョンに共感した個人が地域を超えて集まり形成する組織で、自律分散的に稼働します。組織への貢献度合いに応じて報酬を受け取れるため、主体的なプロジェクト参加を促し、成長を容易にする可能性があります。
DAO型コミュニティの例としては、Bitcoin(ビットコイン)が挙げられます。ビットコインは、ビットコインの理念に共感した世界中の人々が、マイニングと呼ばれる方法で分散的に維持を行い、対価のマイニング報酬としてビットコインを得ています。まさに、ビットコインは自律分散的に稼働しており、DAOの代表例と言えるのです。
また、DAOは組織そのものの運営だけでなく、プロジェクトの運営にDAOを取り入れるといった手法も考えられます。株式会社が新規プロジェクトに共感する人々を集め、貢献度に応じてトークンを付与すれば、ユーザーやファンにもメリットがあるでしょう。
DAOには多様で主体的なコミュニティ・プロジェクトの参加者を増やし、成長を容易にする可能性があります。
Web3領域への人材流入は増加している
Web3領域への注目度が上がったことに伴い、人材の流入数も増加しています。web3エンジニア数は2016年には2,000人程度でしたが、2021年には18,000程度とおよそ9倍に急増しました。
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
Web3はいわゆるZ世代・ミレニアム世代と言われる若者の共感を集めやすい点も特徴です。若者はデジタルネイティブであり、価値観や考え方が似ている人とデジタルで繋がって活動することに抵抗が少ないためと考えられます。
暗号資産のバブル周期によって若干の変動はあるものの、Web3領域の人材は中長期的には増加していくと見込まれています。
Web3の市場規模が拡大していくポジティブ要因3つ
ブロックチェーン市場の拡大を牽引し、好循環に導くポジティブ要因は次の3つです。
- 国内投資の拡大
- イノベーションの加速
- 事業環境の改善
順番に解説します。
国内投資の拡大
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
Web3関連の投資は世界的に成長しており、世界のWeb3関連企業の資金調達額は2020年以降は右肩上がりです。
日本国内の成長も世界経済との連動があるため、今後もWeb3関連の投資が順調に伸びていけば、国内の市場の成長が見込めるでしょう。
イノベーションの加速
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方_ミッションステートメントを踏まえた中長期の目標(案)」では、「中長期的には、ブロックチェーン関連で健全で価値ある技術的・ビジネス的イノベーションを起こす可能性を持ち日本を主たる拠点の1つとする企業・事業数や高度人材の数を増加させることを目指す。」としています。
ブロックチェーン関連がイノベーションを起こす産業と認識されており、国主導で企業や高度人材の増加を目指す案が公表されているため、イノベーションが起きやすい土壌が整備される可能性があります。
また、同資料では「海外に出た日本人起業家の成功の果実を中長期的に如何に日本が取り込むかという視点も重要」とも述べられており、海外流出しがちなブロックチェーン関連人材の呼び戻しも検討されています。
事業環境の改善
日本は金融規制や税制の影響から、Web3.0関連の事業が困難と言われている環境にあります。
出典元:経済産業省「Web3.0事業環境整備の考え方」
一方、経済産業省は「政府全体で検討すべき政策の全体像」として「Web3やブロックチェーン技術の発展のための事業環境を整備する必要」だと述べており、事業環境の改善に前向きな姿勢であると言えるでしょう。
具体的には、法人の暗号資産の期末時価評価課税の見直しや、暗号資産の該当性に関する規制のサポートなどが挙げられています。
日本でWeb3関連事業が行いにくい障壁はできる限り早く取り除くことも掲げられているため、事業環境が改善さる可能性が高く、それにより国内の事業が活発化する可能性があるといえます。
今後の市場規模のネガティブ要因2つ
市場が成長し、認知度も拡大しているブロックチェーンですが、今後の発展において考えうるネガティブ要因も存在します。
市場のトレンドがAIにシフトしている
2023年ごろより、米OpenAI社の「ChatGPT」に代表される生成AIの注目が高まっています。そのため、WebやIT関係での注目が、ブロックチェーン・Web3からAIへシフトしているため、開発者や投資家、起業家などがAI関連に流出してしまう可能性があります。
出典元:内閣官房 「スタートアップ・エコシステムの現状と課題(ディープテック分野を中心として) 」
2024年時点ではWeb3は「インターネットにブロックチェーンを組み合わせ価値のやり取りができるもの」といったような認識をされていますが、後の時代から見たときに「Web3はAIの時代だった」と表現されていることもありえるでしょう。
一方で、AIとブロックチェーン・Web3自体は競合するものではなく、むしろ相互的に組み合わせたプロダクトなどでメリットを発揮できます。たとえば、ブロックチェーンではデータの改ざん対策や規格化など、AIでは規格化したデータに基づく分析作業など、長期的には互いのメリットが融合したプロダクトの登場などが期待できます。
国際情勢の緊張感が高まっている
ブロックチェーンやWeb3は、インターネットを通じて世界中の誰もがアクセスできる分散型システムという特徴を持っています。しかし、国際情勢の緊張が高まる中、この特徴が新たな規制強化の背景となっています。
出典元:金融庁「FATF参加国(26カ国・地域及び2つの国際機関)」
FATF(金融活動作業部会)という、国際金融関連の国際機関では、暗号資産取引所等に対して「トラベルルール」と呼ばれる規制の導入を求めています。暗号資産の送金時に送受金者の個人情報を伝達することを義務付けるもので、マネーロンダリングや、テロ資金供与及び拡散金融を防ぐことが主な目的です。日本を含む加盟国では、トラベルルールへの対応が進められています。
暗号資産の匿名性と分散性は、国際的な資金移動を容易にする一方で、経済制裁回避など国際金融秩序への影響も指摘されています。そのため、各国は取引のモニタリング体制の整備や、本人確認の厳格化など、規制を強化する傾向にあります。
このような国際情勢を背景に、今後も暗号資産関連の規制は強化される可能性が高いと予想されます。
まとめ
ブロックチェーンはWeb3.0を支える重要な技術であり、今後ますますの進展が予想されます。しかし、国内の投資を拡大させるためには海外に引けをとらないような事業環境の整備が急務です。
政府は法的規制や税制を見直し、投資家保護やマネーロンダリング対策を施しながら事業環境を整備していく方針を打ち出しています。
政府動向は市場規模の変動に大きな影響を与えるため、今後も国の動向に注目が必要です。
MCB Web3カタログは、Web3領域におけるBtoBサービスを網羅的に検索・比較することができるカタログサイトです。MCB Web3カタログの会員(無料)になると、事業者向けのWeb3ソリューションに関する資料を個別もしくはカテゴリー別に請求できます。
以下のような企業様におすすめです。
- ブロックチェーンを活用した新規事業の開発を検討している企業
- ブロックチェーン活用に向けたコンサルティングサービスを探している企業
- Web3関連のソリューション導入を検討している事業者
MCB Web3カタログへ掲載してみませんか?約50社が掲載する国内最大級のWeb3×BtoBサービス検索・比較プラットフォームです。新規掲載企業も随時募集しております。