web3ホワイトペーパー2024とは?わかりやすく徹底解説

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web3ホワイトペーパー2024

「日本のWeb3は世界から周回遅れ」

テクノロジー業界でこうした声が高まるなか、自民党が『web3ホワイトペーパー2024』を公表しました。このホワイトペーパーには、ブロックチェーン技術暗号資産を活用した次世代インターネット「Web3」について、日本が目指すべき方向性と具体的な施策が示されています。

NFTメタバース分散型金融(DeFi)など、Web3技術は急速に進化を続けています。しかし、日本ではこれらの新技術への対応が遅れているとの指摘が相次いでいます。本記事では、この重要政策文書の内容を分かりやすく解説し、日本のWeb3産業の発展に向けた戦略と展望について詳しくご紹介していきます。

web3ホワイトペーパー2024とは

『web3ホワイトペーパー2024』は、自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチームが策定した、日本におけるWeb3推進のための政策提言です。2022年3月に公開された「NFTホワイトペーパー」、2023年4月に公開された「web3ホワイトペーパー2023」に続く第3弾です。

過去には、Web3規制の明確性と厳格さからイノベーション創出が遅れているという課題がありましたが、法制・税制の見直しが進み、事業環境は大きく改善されつつあります。

現在、世界中でWeb3のマス・アダプション(大衆受容)が進んでおり、日本でも同様の動きが見られますが、このペーパーでは、「我が国をWeb3の中心にする」というメッセージを掲げ、Web3推進に向けて直ちに対処すべき論点と、さらなる発展を見据えて議論を開始・深化すべき論点を提示し、課題と対応方針を示すとともに、過去に公表された提言の進捗状況についてのフォローアップもおこなっています。

要約

web3ホワイトペーパー2024が示す日本のデジタル戦略

自由民主党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチームが発表した「web3ホワイトペーパー2024」は、日本をweb3時代の中心に位置づけるための包括的な政策提言です。この1年間で、暗号資産の期末時価評価課税問題の解決やパーミッションレス型ステーブルコインの流通認可など、具体的な成果を上げてきました。

新たな重点課題として、VC(Verifiable Credentials)とDID(分散型ID)の利活用促進、ブロックチェーン関連事業への投資環境整備、暗号資産税制の見直しなどを掲げています。特に注目すべきは、DAOの活用促進に向けた法的整備や、NFTビジネスの健全な発展支援など、新しい経済圏の創出を目指す具体的な施策です。

このホワイトペーパーの特徴は、安全性の確保とイノベーションの促進を両立させる「日本型web3」の確立を目指している点です。AIなど他分野との連携も視野に入れつつ、国際的なルール策定にも積極的に参画する方針を示しています。

今後は、関係省庁による横断的な取り組みと民間事業者との協力のもと、これらの施策を着実に実行していく計画です。web3技術を社会基盤として定着させ、経済発展と社会課題解決の両立を目指す日本の新たな挑戦が始まっています。

web3ホワイトペーパー2024の位置づけ

web3ホワイトペーパー2024の位置づけは、Web3エコシステムを我が国の発展に取り込むことに加え、VC/DIDといった広く社会のデジタル化に資する有望な技術や、他のテクノロジーと融合することで社会基盤となりうるブロックチェーンテクノロジーのさらなる発展を強力に後押しするための提言であり、意思表明でもあります。

「我が国をWeb3の中心にする」という標語と環境整備について

日本のWeb3規制の明確性と厳格さは世界でも際立っており、危機に対する頑強性に対する評価は高かったものの、イノベーションの創出という観点からは法制・税制など課題は山積みでした。

多くの事業者がさまざまな課題を抱えていましたが、事業環境の整備が急速に進むことに懐疑的な見方が大勢であったため、多くの起業家が海外に渡ったという経緯があります。

本格的なWeb3時代の到来を目前に「我が国をWeb3の中心にする」という強い決意を持ち、事業者・政府・官公庁といった多様なステークホルダーとともに課題を拾い上げ、事業環境と投資環境の整備をおこなってきました。

世界で加速しているWeb3事情

世界中でWeb3のマス・アダプションが加速しています。ドル建て中心のステーブルコインは決済手段として存在感を増し、米国ではビットコイン現物ETFが承認され、投資家層が拡大しました。グローバルDAOはWeb3技術で国境を超えたネットワークを構築し、既存の枠組みにとらわれない組織として重要性を増していくでしょう。

日本でもマス・アダプションに大きな動きがありました。パーミッションレス型ステーブルコインが認められ、多くの企業が参入を表明。DAO(自律分散型組織)を活用した取り組みも地方創生などで広がっています。

Web3技術はWeb3経済圏外にも拡大しており、日本が10年前に提唱したSociety 5.0の世界が現実味を帯びています。そこでは、AI、IoTメタバースに加え、ブロックチェーンも重要な技術です。ステーブルコイン、DAOに加え、VC(Verifiable Credentials)やDID(分散型ID)への期待も高まっています。巨大プラットフォーマーによる個人情報の一元管理の弊害が認識される中、分散型ブロックチェーン技術は、最適な解決策となるのではないかと期待されています。

ペーパー内で列挙されているWeb3の推進に向けてただちに対処すべき論点の抜粋

ペーパー内では、Web3の推進に向けてただちに対処すべき論点の抜粋が示されています。

国際的なルール策定

Web3推進に向け、国際的なルール策定は喫緊の課題です。現状、世界的に暗号資産市場は冬の時代を迎え、各国で規制強化が進んでいます。2023年には日本が議長を務めたG7で、暗号資産への効果的な規制監督の必要性が共有され、FSB(金融安定理事会)やIOSCO(証券監督者国際機構)などが勧告を策定、G20でもロードマップが採択されました。これは国際的な連携が不可欠であることを示しています。

日本は過去のハッキング事例を踏まえ、消費者保護を重視した規制を早期に導入し、暗号資産交換業者の登録制や顧客資産の保全策を整備してきました。その結果、世界的な破綻事案の影響を国内で限定的に抑えることに成功しています。この強靭な法規制体系は、国際的に見ても高く評価されるべきでしょう。

今後は、G7でのリーダーシップを活かし、国際的な勧告等の実施において、技術中立的かつ責任あるイノベーションを主導していくべきです。国際ルール形成に積極的に貢献し、Web3の健全な発展を牽引することが求められます。

VC及びDIDの利活用促進、DIW に関する検討

Web3のマス・アダプションには、ブロックチェーン技術の多様な活用が不可欠であり、中でもVCやDIDは、社会のデジタル化に資する有望技術として注目されています。現代社会ではID管理が特定プラットフォームに集中し、国際競争力や安全保障上の課題となっていますが、VC/DIDを用いることで、プライバシーリスクを軽減しつつ、デジタル化とデータ利活用を推進できる可能性があります。

また、DIW(デジタルIDウォレット:個人・法人の属性や資格情報を保存し、提示できるウォレット)を金融や行政サービスにおいて利活用する際の議論も今後一層求められます。

これらの有望な技術の利活用を推進するには、関係省庁主導でVC/DID等の官民連携を強化し、国際標準化を含む議論に積極的に参加し、早期実装を進めるべきです。本人を介した情報連携促進のため、政府・自治体が率先してVC発行者・検証者となることを視野に入れる必要もあります。関係省庁は産業振興や競争政策の観点も含めた政策検討を重点的におこなうべきでしょう。

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ブロックチェーン関連事業への投資ビークル・スキームの多様化

ブロックチェーン関連事業への投資ビークル・スキームの多様化も直ちに対処すべき論点です。具体的には、投資事業有限責任組合(LPS)による暗号資産投資の円滑化が求められます。

現状、LPS法改正によりLPSの暗号資産投資は前進する見込みですが、暗号資産発行体からLPSへの売却時の交換業該当性や、GPの投資決定における交換業登録要否が不明確です。これらが明確化されない限り、LPSによる投資は滞る可能性があります。

経済産業省は、LPSの暗号資産投資を機能させる下位法令策定へ注力すべきだと言えます。また、金融庁は暗号資産業界や関係省庁と連携し、交換業該当性等の論点に対し迅速な対応を講じる必要があり、その際、スタートアップ育成方針やLPS等は投資のプロであり、個人投資家のような利用者保護は不必要である点などを勘案すべきでしょう

税制改正

日本のWeb3ビジネス発展の税制上の課題は、個人の暗号資産所得課税です。法人税の期末時価評価課税は改正により一定の解決を見ましたが、個人の暗号資産取引は最高税率55%の雑所得として課税され、海外流出を招いています。海外で導入されている暗号資産ETFが国内で流通、または組成され、その所得が分離課税となれば、現物取引との税制不均衡が生じ、国内の流動性低下とWeb3ビジネスの阻害が懸念されます。暗号資産同士の交換も課税対象であるため、納税者の申告を妨げています。

提言では、個人の暗号資産課税に関して、①20%の申告分離課税、②損失の繰越控除(翌年以降3年間)、③デリバティブ取引についても同様の申告分離課税適用が検討されるべきとしています。また、暗号資産同士の交換時点では課税せず、法定通貨への交換時にまとめて課税する方式も検討されています。また、暗号資産の種類に応じた分離課税の適用、諸外国の課税制度との比較、納税申告や税収への影響、国民の理解も考慮すべきです。

暗号資産寄附は手数料の低さや簡便性から、災害支援等で有効です。しかし、現状の税制では、暗号資産の寄附が特定寄附金に該当するか不明確であり、寄附金控除や損金算入の適用が曖昧です。これが寄附を阻害する要因となっています。不動産等の寄附には含み益への非課税特例がある一方、暗号資産には同様の特例がなく、含み益が課税対象となる点も課題です。

そこで、暗号資産の寄附について、個人は所得税法上の寄附金控除、法人は特別損金算入の対象となり得ることを明確化すべきです。具体的には、通達やタックスアンサー等で周知を図ることが求められます。さらに、租税特別措置法40条と同様の非課税措置を暗号資産にも適用し、含み益への課税を解消することが重要です。これにより、暗号資産が公益目的でより活用されることが期待されます。

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DAO の活用促進のためのさらなる措置

合同会社型DAOの活用促進のためには、例えば社員勧誘の制限や銀行口座開設の審査難などの実務的な課題を解決しなければなりません。提言では、不正利用に留意しつつ収益分配の有無に応じた社員権トークンの扱いを見直すことや、DAOメンバーの匿名性確保策(例:KYC済みウォレットアドレスでの社員記載)の検討が挙げられています。

地方創生等でDAOの活用事例が見られますが、今後は公益型・営利型を問わず更なる活用が期待されています。そのため、合同会社以外の法形式の活用や、会計・税務上の取扱いの明確化が求められます。当該法形式を活用したDAOを設立する際の課題を洗い出し、対応できる点は速やかに対応することが提言されました。

また、海外のDAO法制度(スイス、マーシャル諸島等)との相互運用性確保も重要です。海外の法制度やグローバルに活動するDAOの調査・研究も踏まえて、既存の法形式にとらわれないDAOに特化した法形式の創設などの検討着手も提言に挙げられています。

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決済・投資手段のデジタル化

2023年4月に発表された「web3ホワイトペーパー2023」で、Web3等の産業振興にはパーミッションレス型ステーブルコインの発行・流通が不可欠と提言されています。パーミッションレス型とは、管理者の許可を必要としない、もしくは管理者が存在せず、誰でも自由にネットワークにアクセスして取引ができることを意味します。同年6月には関連法令が施行されたものの、2024年4月時点では業登録業者はなく、発行・流通事例も確認されていません。

そのため、当局及び業界が同ステーブルコインの早期の発行・流通及び自主規制団体の設立に向けて必要な取組みを進めることや、裏付け資産を国債で保有することの是非の検討、銀行本体での同ステーブルコインの発行に関する障害についての論点整理に着手することなどが提言されています。

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また、セキュリティトークンの流通促進のための措置として、取引規模に応じた認可型・登録型のPTS(私設取引システム)の誕生に際してそれぞれのルール作りが提言されました。税制面では、公募型特定受益証券発行信託のセキュリティトークンのNISAの対象としての適切性や、匿名組合契約に基づくトークン化商品に係る利益分配と譲渡の所得の取扱いについての検討が求められています。

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金融機関のweb3参入

Web3サービスの普及には金融機関の積極的な関与が不可欠ですが、銀行・保険会社のグループがWeb3領域に参入する際、法令上の付随業務に含まれるか否か、また高度化等会社の認可要件に関する不明確さが課題となっています。実務上、付随業務の該当性が明確でない場合や、抽象的な認可要件に対しどこまで説明すべきか不明瞭な点が、参入を阻む要因となっています。

提言では、当局がWeb3参入を検討する金融機関に対し、事前相談を通じた効率的な申請準備支援をおこなうことや、認可審査の迅速化を図るための相談対応体制を強化することを求めました。透明性の観点からは、付随業務の解釈や認可審査基準について、事例の蓄積に応じて解釈指針を具体化し、タイムリーに公表していくことも付け加えられています。

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NFTビジネス

欧米で発展したNFTのランダム型販売サービス(NBA Top Shot型)は、賭博罪の懸念があるものの、明確な事例は存在しません。この問題はスポーツに限らず、他のコンテンツ産業にも共通しており、Web3領域をカバーする統一的な業界団体の必要性と、官民連携によるガイドラインの周知が課題となっています。

一方、NFTの暗号資産該当性については、金融庁のガイドライン改正により活用可能性が広がっていますが、コンテンツ制作におけるトークン発行等には依然法的課題が残っています。NFTを活用したファンタジースポーツ等のビジネスモデルは欧米で急速に発展していることを受け、日本でも官民連携で賭博罪等の法的課題の整理や適法な事業展開のためのガイドライン策定、海外NFT事業者が日本のコンテンツを無断活用する事例への対処、などについて提言されました。

また、NFTホワイトペーパーの提言を受けたスポーツエコシステム推進協議会は2022年9月に、スポーツ選手等の肖像を使用したNFTの二次流通における収益還元のルール整備を目的としたガイドラインを策定しましたが、各団体で選手引退・移籍時の標準的な収益還元ルールがないため、NFTサービスの二次流通活用が阻害されている状況です。選手への収益還元は、関係団体・省庁・業界が連携し、早急にルール整備を進める必要があります。

スポーツ団体ごとに慣行が異なるため、官民連携による対話を通じたモデル策定が有益といえるでしょう。これはスポーツ以外の二次流通においても同様です。例えば、映画の一部NFT流通におけるワンチャンス主義適用時は、著作隣接権に基づく権利行使はできませんが、パブリシティ権行使の可否が問題となる場合です。

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Web3事業ライセンス

Web3事業の推進において早急な対応を要するのが、事業ライセンスに関する課題です。現状、暗号資産関連サービスは多様化しており、既存の暗号資産交換業に該当するか不明瞭なビジネスモデルが増加しています。

特に、大手事業会社は既存業者との提携を模索するものの、利用者送客などが同業に該当する可能性があり、利便性の高いUI/UX提供が困難という問題を抱えています。金融庁は業該当性の判断基準を示そうとしていますが、暗号資産を利用したビジネスにおける業該当性の判断基準を明確に示すガイドライン等の早期公表が求められます。既存金融業には仲介業ライセンスが存在し、非金融事業者の金融サービス提供を円滑化しています。暗号資産交換業等には同様の制度がなく、大手事業者のWeb3参入を阻害する要因となっています。

既存金融業で実績のある制度を応用することで、円滑な制度設計と監督体制の構築が期待できるため、当局と業界は連携し、仲介業創設等を含めた対応を早急に検討すべきです。

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Web3のさらなる発展を見据え議論を開始・深化すべき論点について

ペーパー内では、Web3のさらなる発展を見据え議論を開始・深化すべき論点について示されています。順に解説します。

Web3コンテンツの海外展開支援

日本のコンテンツ産業(アニメ、漫画、音楽等)は、豊富な知的財産を活かし、Web3エコシステムを取り込むことで、海外市場開拓の大きな可能性を秘めています。Web3活用によりコンテンツの価値をグローバルな適正価格に見直し、新たな市場創出を図ることが期待されます。政府も海外展開支援として、経済産業省のJLOX補助金や総務省の番組制作支援、文化庁の事業等を実施しています。

知的財産推進計画2023では、Web3等次世代ビジネス環境への対応が示されましたが、政府全体での支援体制は未整備で、省庁間の連携も十分ではありません。海外では無許諾NFTの発行が横行しており、コンテンツホルダーはNFT化された際の権利関係が不明確なため、Web3活用に不安を感じています。これらの課題に対し、官民一体となった取り組みが求められます。

Web3を活用したコンテンツの海外展開を促進するためには、司令塔となる省庁を明確化し、関係省庁に相談窓口の設置が求められます。海外展開支援策として、信頼できる海外Web3企業とのマッチングや、税制優遇措置の活用を官民一体で検討すべきでしょう。特に映画ビジネスでは、DAO活用が期待されるため、製作委員会DAOのグローバル展開の可能性を早急に整理・検討し、官民連携による実現策を講じる必要があります。

安心安全な利用環境

一般消費者のWeb3エコシステムへの参加が進み、経済圏は拡大傾向にあります。近い将来、サイバー空間とフィジカル空間が融合したシステムが実現し、経済発展と社会課題解決の両立が図られるでしょう。

その中で、ブロックチェーン技術はWeb3エコシステムを超えた基盤技術となる可能性を秘めています。しかし、自己責任が強調されるWeb3への参加や多額の投資は心理的なハードルが高く、ハッキングや詐欺被害に遭った際の復旧は、非常に困難です。

Web3がアーリーアダプター中心のエコシステムから一般消費者も参加する大規模なものへと成長するためには、参加者への自己責任の要求だけでなく、リテラシーに応じた安心・安全な利用環境の提供が不可欠です。特に、高セキュリティなチェーンの開発や、リテラシーの高くないユーザーでも安全に財産を保管・取引できるウォレットの提供がWeb3エコシステム拡大の鍵となります。

消費者への情報提供・啓発においては、縦割り行政に陥らず、消費者目線に立った安心・安全な利用環境整備が不可欠です。利用者保護の一環として、一般消費者向けの安全で使いやすいウォレット開発も政府として注視し、必要に応じて支援していくことが重要です。

自治体支援

自治体がWeb3プロジェクトを進めるには課題が山積しています。多くの自治体はWeb3に関心を持ち知見を蓄積していますが、変化の速い分野だけに、職員の知識更新は容易ではありません。各自治体が個別に努力している現状は、国全体で見ると非効率です。関連法令や制度がWeb3プロジェクトを想定していない点も問題です。

例えば、自治体による暗号資産やNFTの保有や会計処理について、政府の方針が未定のため多くの自治体はWeb3の推進に慎重にならざるを得ません。デジタル庁と関係省庁は、自治体と政府の情報共有の場として開設された、「Web3.0 情報共有プラットフォーム」の周知と、自治体と連携した地方創生事例の創出による活性化が求められます。また、自治体が直面する課題、例えば暗号資産の会計処理等については、関係省庁が連携して早期に解決策を検討する必要があります。

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暗号資産ビジネス・レバレッジ取引について

2019年の金商法改正により、暗号資産デリバティブ取引は規制対象となりました。個人顧客のレバレッジ上限は2倍と定められましたが、法人顧客の上限は自主規制団体であるJVCEA(日本暗号資産取引業協会)がボラティリティ等に基づいて決定することになりました。

個人顧客への2倍という上限は、暗号資産の高いボラティリティを考慮した顧客保護の観点から妥当とも考えられますが、海外には日本より高いレバレッジを許容する無登録業者が多数存在するため、日本の個人顧客が海外業者を選ぶ傾向にあります。結果として顧客保護に繋がっていないため、レバレッジ倍率の引き上げを求める声が出ています。上限引き上げによる影響解消の可能性や取引リスクの程度について、業界や専門家の協力を得ながら調査と検討をおこなうことが望まれます。

JVCEA及び業界団体は、レバレッジ倍率引き上げを主張するならば、リスク拡大が顧客保護上問題ないことを十分な根拠をもって示す必要があり、当局と業界双方が、暗号資産デリバティブ取引の適切な在り方を模索していくことが重要です。

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暗号資産ビジネス・暗号資産ETFについて

米国では2024年1月にビットコイン現物ETFが承認され、大手運用会社を含む提供各社により取引が拡大、3月時点で純資産額は巨額に達しています。同様のETFはカナダやドイツでも上場済です。

一方、日本では投信法で暗号資産が特定資産に含まれず、監督指針でも非特定資産への投資信託組成等が制限されているため、暗号資産を対象とする投資信託やETFは存在しません。

ETFは一般投資家も参加しやすい商品のため、暗号資産取引が米国に集中する可能性があり、日本で暗号資産投資信託やETFを認めない政策が適切か、という点が課題となっています。

暗号資産現物ETFには多様な業者が関わるため、組成・販売には業界連携が不可欠です。投資の必要性について国民的理解を深める取り組みと、それに基づく法改正等の提言が求められます。

また、暗号資産は多種多様であるため、銘柄を限定した検討も有効です。ただし、その際は銘柄選定理由を明確にする必要があります。イギリスではプロ投資家向けにビットコインとイーサのETN取引が開始されており、日本でもプロ投資家向けの投資信託類似商品の組成・販売を検討していくことが望まれます。

ビットコインETFは?仕組みと市場動向、日本での承認について徹底解説

web3ホワイトペーパー2023で取り上げた施策の進捗

2023年にもweb3ホワイトペーパーを提言しており、一部施策に進捗を見せています。抜粋して6つのテーマについて紹介します。

税制改正

・提言
保有する他社のトークンの期末時価評価課税から短期売買目的でないものを除外し、取得原価で評価する。今年確実に実現。

・進捗
令和6年度税制改正において、発行体以外の第三者が継続保有する暗号資産に係る期末時価評価課税からの除外措置が講じられました。

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各種トークンの審査・発行・流通

・提言
金融庁が協力し、 CASC制度の適用対象外となるトークン審査において、トークンの状況に応じた形で、トークン審査事項・項目の具体化・可視化を進めるべき。

・進捗
金融庁は2023年6月、JVCEAが2022年12月に設けたCASC制度の対象外であるICO/IEOに係る金融庁の審査について、ICO/IEO対象事業の適格性・実現可能性等は、原則としてJVCEAによる審査に委ねることとし、その旨をJVCEA及びJVCEAの会員に周知しました。

IEOとは?ICO・IDO・STOとの違いと日本での事例

消費者保護

・提言
経済産業省による海外プラットフォームへの申入れの実験や業界団体によるコンテンツに係る権利情報の記録等の試みを引き続き推進・奨励していくべき。

・進捗
経済産業省にて、令和4年度に続き、令和5年度の調査においても、海外の主要プラットフォーマーに対する無許諾NFTの削除対応の実証を実施しました。無許諾NFTで使われているIPの権利所在を明確にし、削除要請をすることで、マーケットから取り下げられることが調査によって明らかになっています。

デジタル資産の私法上の取扱い

・提言
デジタル資産の法的性質(物権的評価)の検討と対抗要件等の整理をすべき。

・進捗
金融庁金融研究センターにて特別研究員として民商法学者2名を採用(2023年12月)し、海外の取組等を研究中。法務省においては、金融庁の当該研究や国際的な取組の進捗・内容をフォローし、必要な協力を実施しました。

ML/FT対策

・提言
有識者会議等の枠組みの活用を検討することも含め、暗号資産によるML/FTリスクの把握と分析のために議論を深め、健全な暗号資産経済圏の発展とML/FT防止策の進展に向け国際的な議論を主導すべき。

暗号資産(仮想通貨)のマネーロンダリングとは?事例とともにわかりやすく解説

・進捗
日本が議長国を務め、2023年5月に開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁会議の共同声明において、責任あるイノベーションを支援しつつ、暗号資産のリスクへ対処することが重要であるとされました。また、BGIN等の民間団体等における技術的課題に関する議論にも参画しています。

メタバース

・提言
メタバースを活用した就労支援に関するガイドライン策定を進めると共に、雇用機会創出支援、技術開発支援、海外展開支援などについて官民で議論を開始すべき。

メタバースプラットフォームサービス一覧と日本での活用事例を紹介

・進捗
厚生労働省の令和6年度予算案において、人材確保等支援助成金(テレワークコース)の助成対象として仮想オフィス(メタバース含む)を追加しました。また、AIや仮想空間における労務管理の状況等についてヒアリング調査等をおこなう予算が計上されました。

まとめ

web3ホワイトペーパー2024は、日本がWeb3時代の中心となるために掲げた具体的な政策提言です。第1弾である「NFTホワイトペーパー」内で、Web3全盛の到来を目前に、今のままでは必ず乗り遅れると危機感を真摯に訴えてからというもの、法制・税制の見直しが進み、事業環境は大きく改善されてきています。

現在、日本ではWeb3の推進を後押しするためのさまざまな施策が進められていますが、推進に向けてただちに対処しなければならない論点とさらなる発展を見据え議論を開始・深化すべき論点を明確にしていくことが、確実に前進する手だてとなり得るでしょう。

本ペーパーは、政府だけでなく企業によるビジネスモデル創造など、官民一体となってWeb3エコシステムの健全な発展を進め、Web3の社会基盤の整備と発展を目指していくための重要な1歩になることは間違いないでしょう。

※参考資料

web3 ホワイトペーパー 2024~新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ~(要旨)

https://www.hirataku.com/uploads/6618e2a0e19aba30708a3ccd.pdf

web3 ホワイトペーパー 2024~新たなテクノロジーが社会基盤となる時代へ~

https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/208287_4.pdf

平井卓也 web3PTホワイトペーパー2024

https://www.hirataku.com/blog/202404121514/

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