量子エラー訂正(Quantum Error Correction, QEC)は、量子コンピュータにおける情報の正確な処理と長期的な保持を可能にするための重要な技術です。量子コンピュータは、従来のコンピュータとは根本的に異なる原理で動作し、量子ビット(qubit)と呼ばれる情報の単位を使用します。量子ビットは、0と1の状態を同時に表現することができる「重ね合わせ」という性質を持っており、これにより量子コンピュータは膨大な計算を並列で行うことが可能です。
しかし、量子ビットは非常にデリケートで、外部からのわずかな干渉によってもその状態が簡単に崩れてしまいます。これを「量子デコヒーレンス」と呼びます。量子デコヒーレンスは、量子ビットの重ね合わせの状態を破壊し、計算結果に誤りをもたらす可能性があります。そのため、量子コンピュータが実用的なレベルで動作するためには、このようなエラーを訂正する仕組みが不可欠です。
量子エラー訂正は、量子ビットが受ける可能性のある様々なエラーを検出し、それを訂正する方法です。量子エラー訂正の基本的なアイデアは、複数の量子ビットを使って1つの論理量子ビットを表現し、エラーが起きたときにそれを冗長性を使って検出し、訂正することです。これは、従来のデジタルコンピュータで使われているエラー訂正コードの原理に似ていますが、量子の世界ではもっと複雑な問題があります。
量子エラー訂正には、いくつかの異なるアプローチがありますが、最も有名なのは「量子エラー訂正符号」です。これには、ショアの9量子ビット符号、スタビライザ符号、トポロジカル符号などがあります。これらの符号は、量子ビット間の特定の量子もつれを利用して、エラーが起きた場合にその情報を他の量子ビットに分散させることで、元の量子ビットの状態を復元することができます。
例えば、ショアの9量子ビット符号では、1つの論理量子ビットを9つの物理量子ビットで表現します。これにより、1つまたは2つの量子ビットにエラーが発生しても、残りの量子ビットの情報から元の状態を復元することができます。このようにして、量子コンピュータの計算結果の信頼性を保つことができます。
量子エラー訂正は、量子コンピュータの実用化に向けた大きな課題の一つであり、現在も多くの研究が行われています。エラー訂正の技術が進歩すれば、より大規模で複雑な量子コンピュータの開発が可能になり、新しいタイプのアルゴリズムやアプリケーションが現実のものとなるでしょう。量子エラー訂正の研究は、量子情報科学の中でも特に活発な分野であり、今後のテクノロジーの進展に大きく寄与すると期待されています。