暗号資産(仮想通貨)のマネーロンダリングとは?事例とともにわかりやすく解説

By | 法律・規制

マネーロンダリングとは

マネーロンダリングは、犯罪や脱税などの不正な手口で入手した資金の出所を不明にするための工作です。暗号資産はネットワークに繋がってさえいれば簡単に海外へ送金できるため、マネーロンダリングに使われる危険性があります。

この記事ではマネーロンダリングの定義や講じられている対策について、過去の実例も紹介しながら解説します。

マネーロンダリングの意味と目的

マネーロンダリングは、暗号資産が登場する前から使用されている手口です。警察庁によると、2023年中に金融機関などから警察庁に届け出られた疑わしい取引の件数は70万件を超えており、過去最多となっています。

出典:警察庁「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和5年)

ここではマネーロンダリングが行われる目的について解説します。

マネーロンダリングは資金洗浄のこと

マネーロンダリングは日本語に直すと「資金洗浄」です。犯罪や不当な取引で得た資金を、多数の金融機関を経由することで出所を分からなくさせる行為を指します。

犯罪収益移転や脱税目的でつかわれる

犯罪や不当な取引で得た資金は警察の捜査で見つかりやすく、いわゆる「足がつく」状態になっています。架空口座や他人名義の口座を転々とさせることにより、資金の出所をあいまいにすることで、怪しまれずに使える状態になります。

不当に得た資金が洗浄され、正当に得た資金に見えるようになることから、マネーロンダリング(資金洗浄)と呼ばれるのです。

マネーロンダリングが規制される理由

マネーロンダリングが行われると、犯罪や不当な取引で得た収益の出所がつかめなくなります。そのため、不正に得られた資金が将来の犯罪活動に使用されたり、テロ行為を助長したりする危険につながります。国際的にもテロの脅威が高まっているなか、犯罪者やテロリストに資金が供給されないようにすることは各国共通の課題と言えるでしょう。

マネーロンダリングを規制する法令として、犯罪収益移転防止法が挙げられます。犯罪による収益の移転防止やテロに対する資金供与の防止を目的に、2007年に成立した法律です。

また、同法による規制をより実効的なものとするため、次の3つの分野には個別法が制定されています。

  • 麻薬対策
  • 組織犯罪対策
  • テロ資金供与への対応

各法の制定の経緯を踏まえて、順番に解説します。

麻薬対策

1980年代までに、国際社会では麻薬汚染に対する危機感が広がっていました。そこで、1988年に「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」(麻薬新条約)が採択され、薬物犯罪による収益を隠すことを犯罪とするよう締約国に義務付けられました。

当該条約の締結を受け、日本では1992年に「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(麻薬特例法)が施行されます。これにより、薬物犯罪収益に関するマネーロンダリングを犯罪として取り締まるようになりました。

組織犯罪対策

麻薬特例法によりマネーロンダリングの取り締まりが始まったものの、薬物犯罪に限定されていたため、国際社会から改善要望を受けました。これを受けて2000年に施行された組織的犯罪処罰法により、重大犯罪も取り締まり対象となりました。現在ではテロ資金提供の罪も対象としています。

テロ資金供与への対応

テロへの対応については、資金供給の遮断と供給ルートの解明が重要と考えられてきた経緯があります。この考えに基づき、1999年に「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際連合条約(テロ資金供与防止条約)が採択されました。

日本では2002年に「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律」(「テロ資金提供処罰法」)が施行され、テロ資金提供行為が犯罪化されました。

過去に行われたマネーロンダリングの実例

過去に行われたマネーロンダリングの実例として、次の3つを利用したものが挙げられます。

  • フリマサイト
  • 飛ばし口座
  • ギャンブル・カジノ

ひとつずつ見ていきましょう。

フリマサイトを用いたマネーロンダリング

フリマサイトを利用すれば、個人が気軽にさまざまな商品を取引できます。しかし、この仕様を逆手にとり、マネーロンダリングが疑われる行為が散見されました。

対応策として、例えば大手フリマサイトのメルカリでは複数アカウントを利用して出品者自身が購入する行為や、架空の商品をクレジットカードで購入して現金化する行為を禁止しています。

また、クレジットカードを現金化する行為は、カード会社が規約で禁止していることが多いです。規約に違反するとカード利用を停止されたり、新規発行を制限されたりする可能性があるため、行わないようにしましょう。

出典:メルカリ「マネーロンダリングが疑われる行為(禁止されている行為)」

飛ばし口座を用いたマネーロンダリング

「振り込め詐欺」などの特殊詐欺では、他人名義の預金口座を悪用します。「出し子」を使って不正に取得した口座から現金を引き出したり、別の口座に振り替えたりすることで、マネーロンダリングを実行します。

銀行口座の名義貸しや売買は、犯罪収益移転防止法の処罰対象です。また、金融機関に嘘をついて口座を新たに作成した場合は詐欺罪にも問われる可能性があるため、絶対に行わないようにしましょう。

ギャンブル・カジノを用いたマネーロンダリング

カジノとは、カードゲームやスロットで賭けを行う施設のことです。ラスベガスやマカオなど、カジノ運営国ではマネーロンダリング事件が過去に起きています。

カジノでは現金を遊戯用チップに交換し、ゲーム終了時に再び現金に交換します。そのため、持ち込んだ資金をほとんど減らすことなくマネーロンダリングできます。チップを仲間に譲渡して換金してもらえば、資金を持ち込んだ本人はカジノで大負けしたと見せかけることも可能です。

また、カジノは常に大金が動く場所のため、大量の現金を保有していても比較的怪しまれずに行動できる点も特徴です。犯罪や不当な取引で得た資金を簡単に洗浄できることから、カジノはマネーロンダリングの温床になりやすいと言われています。

カジノを運営している諸外国では、高額取引や疑わしい取引に報告義務を課すなどの対策を実施しています。

マネーロンダリングは暗号資産特有の問題ではない

マネーロンダリングは暗号資産だけに発生する問題ではありません。現金もマネーロンダリングがしやすいと言われています。流通履歴が残らず、誰がどのようなルートで持ち込まれたものか確認できないためです。

たとえば、今財布の中にある1000円札が、以前誰が持っていたものかわからず、どのような経緯で獲得した紙幣なのかはわかりません。

暗号資産はマネーロンダリングを行いやすいと考えられているものの、結局は利用者のモラルによります。

暗号資産(仮想通貨)のマネーロンダリング対策(AML)

金融機関の関与を受けず、簡単に国際送金できる暗号資産はマネーロンダリングに利用されるリスクがあります。このようなリスクに対応するため、国際機関や政府は次のようなマネーロンダリング対策(Anti−Money Laundering・AML)を講じています。

  • トラベルルールの制定
  • 匿名通貨の排除

順番に解説します。

トラベルルールの制定

トラベルルールは、マネーロンダリング対策を行う国際機関「FATF」(Financial Action Task Force・国際金融作業部会)が各国に導入を求めている規則です。内容としては「暗号資産の出金を行う暗号資産交換業者は、出金依頼人と受取人に関する一定の事項を、受取人側の暗号資産交換業者に通知しなければならない」というものです。

トラベルルールに対応するため、日本では犯罪収益移転防止法をはじめとする6つの関連法を改正しました。これにより、暗号資産もトラベルルールの適用対象となっています。また、日本だけでなく、アメリカやシンガポールといった海外でも法制化が進んでいます。

匿名通貨の排除

匿名通貨は、送金者や受取人の身元、取引金額などを隠す機能が備わっている暗号資産です。金融庁は事務ガイドラインのなかで、移転記録の追跡が著しく困難な暗号資産は取り扱ってはならないとしています。

”金融庁事務ガイドライン(16 暗号資産交換業者関係)”
(注1)特に、日本暗号資産取引業協会自主規制規則「暗号資産の取扱いに関する規則」
において、①法令又は公序良俗に違反する方法で利用されるおそれが高い暗号資産、
②犯罪に利用されるおそれが高い暗号資産、③テロ資金供与やマネー・ローンダリン
グ等に利用されるおそれが高い暗号資産については、その取扱いの適否を慎重に判断
しなければならないとされていることに留意する。また、同規則において、暗号資産
の特性及び暗号資産交換業者の態勢に鑑み、以下のいずれかに該当する暗号資産の取
扱いを禁止するとともに、移転記録の追跡が著しく困難である暗号資産については、
テロ資金供与やマネー・ローンダリング等に利用されるリスクが高く、適切な監査が
実施できないおそれがあることから、これら問題が解決されない限り、取り扱っては
ならないとされていることに留意する。
・ 移転・保有記録の更新・保持に重大な支障・懸念が認められるもの
・ 公認会計士又は監査法人による適切な監査が困難なもの
・ システム上その他安全な保管及び出納が困難なもの
・ 上記のほか、資金決済法上の義務の適正かつ確実な履行が困難なもの

出典:金融庁「暗号資産交換業者関係

実際にZcash、moneroなどの匿名通貨は、金融庁の取引可能通貨リストやホワイトリストから排除されています。

暗号資産でマネーロンダリングが行われた事例

暗号資産取引所へのハッキングで得た暗号資産について、マネーロンダリングを行う事例が起きています。次の2つは、過去に暗号資産をめぐってトラブルになった事案です。

  • NEM事件
  • Mt.GOX事件

それぞれの事件の概要について簡潔に紹介します。

NEM事件

2018年に、コインチェックのシステムが不正アクセスを受け、580億円相当の暗号資産「NEM」が流出した事件です。流出したNEMはダークウェブ上に開設された交換サイトを通じ、別の暗号資産に交換されていました。

不正アクセスの原因は、第三者からコインチェックの社員あてに送付されたメールリンクを発端とするマルウェア感染です。事件当時はオンライン上で暗号資産を管理するホットウォレットでNEMを管理していたため、被害の拡大につながりました。

警視庁は、このダークウェブ上でNEMを交換した人物など計31人を逮捕・書類送検しました。交換額は180億円相当で、これは流出した金額の約3割です。残りは大半が海外に流出し、交換者が特定できないケースが多いと言われています。

この事件を契機にコインチェックはセキュリティ体制を強化し、現在は金融庁の暗号資産交換事業者として認可を受けています。

Mt.GOX事件

2014年に、Mt.GOX社のサーバーがハッキングされ、470億円相当のビットコインが流出した事件です。流出先が特定されておらず、資金洗浄をしたと言われています。

事件当時はビットコインの流出と暗号資産交換業者の閉鎖が大きく報道され、ビットコインの信用低下にもつながりました。実際に、投資家が市場から撤退して一時的に価格が暴落するといった影響が生じています。

しかし、本件の直接の原因はMt.GOX社のセキュリティシステムや管理体制が不十分だったところにあります。本件を契機に日本では資金決済法が改正され、暗号資産取引所の登録制度が開始されました。

暗号資産(仮想通貨)のマネーロンダリングに関する法整備の経緯

暗号資産取引のマネーロンダリング対策は、国内だけにとどまる問題ではありません。FATF勧告への対応が遅れている国は、国際社会上金融リスクが高いとみなされるためです。金融リスクが高いと評価されれば、国際的な送金や取引に制限を課されるなど、経済活動に影響を受けるリスクが生じます。

こうしたリスクを避けるため、日本ではFATF勧告を受けて以下のとおりさまざまな法整備を進めてきました。

時期 国内法整備 主な内容
2013年4月 犯罪収益移転防止法改正 顧客管理の強化
2017年4月 資金決済法および犯罪収益移転防止法改正 暗号資産交換業者を法令上で定義し、登録制を導入
2020年5月 6つの関連法(FATF対応法)改正 仮想通貨の呼称を暗号資産に変更
2022年12月 資金決済法改正 トラベルルールを法定

暗号資産は登場からしばらくの間、法規制が何もない状態が続いていました。法規制が無ければ犯罪などによる悪用リスクは高くなります。また、利用者保護が十分に行われていなければ、安全で活発な経済活動は期待できません。そのため、国際的な動向を踏まえながら法改正が重ねられてきました。

暗号資産に関する法令は、今後も改正が続く可能性が高いです。最新の情報に注目し、内容について十分に理解を深める必要があります。

警察庁は暗号資産のマネーロンダリング対策を強化

暗号資産を使用したマネーロンダリングや、暗号資産そのものを騙し取る詐欺事件の摘発も急増しています。警察庁はこうした重大サイバー事案に対処するため、2022年に全国を管轄区域とするサイバー特別捜査隊を新設しました。2024年にはサイバー特捜部に昇格し、重要度は高まっています。

2025年度の予算概算要求では、暗号資産の移動を追跡する専用ツールのライセンス費用を計上しています。マネーロンダリングの疑いがある取引の分析に活用し、犯罪の摘発につなげていく姿勢です。

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