暗号資産(仮想通貨)の法人化とは?税金対策のタイミングやメリット・デメリットを解説

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暗号資産法人化

法人化は、暗号資産取引における節税対策として有効な方法のひとつです。

個人が暗号資産取引で得た利益は雑所得になり、所得税が課税されます。所得税は累進課税のため、利益が大きくなればなるほど税負担率も上がる仕組みです。

会社の事業として投資すれば税率を抑えられるだけでなく、赤字を繰り越せるといった恩恵を受けられます。しかし、暗号資産の含み益も課税対象にされる点がリスクです。

本記事では暗号資産取引を行う際に法人化するメリットやデメリット、タイミングなどについて解説していきます。暗号資産への投資が軌道に乗り、安定して利益を得られるようになってきた方は、本記事を参考に法人化を検討してみてください。

暗号資産をとりまく税制の概要

関連税制は暗号資産の登場時から現在に至るまで大きく変わってきています。これまでの改正内容について簡単に振り返ってみましょう。

2014年、政府が「仮想通貨はモノ」と答弁したことをきっかけに、当時の暗号資産は消費税の課税対象となっていました。その後、2017年の税制改正により、暗号資産の売買にかかる消費税は非課税取引となりました。

2019年の改正では、法人税に関する措置として、活発な市場が存在する暗号資産が期末時価評価の対象となりました。しかし、含み益に課税されるのを嫌がったスタートアップ企業が国外へ流出するようになります。このため、2023年度の税制改正では、一定の要件を満たす自己発行暗号資産について、期末時価評価による評価損益の計上を繰り延べることが可能になりました。

このように、暗号資産をとりまく税制は改正が続いています。2024年度も改正が行われる予定のため、政府の動向には今後も注目が必要です。

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個人で暗号資産投資した場合のデメリット

暗号資産は個人が手軽に投資できる点が魅力です。法人化には面倒な手続きが必要で、費用もかかることから最初から検討する必要はないかもしれません。

しかし、個人所得税は累進課税のため、利益が大きくなるにつれて税負担も重くなります。また、損益通算ができず、赤字の繰り越しができない点もデメリットです。給与所得との損益通算ができず、投資で得た利益はすべて課税対象になります。たとえ前年に大赤字を出していても、翌年に黒字となれば課税は避けられません。

一方で、法人税は個人所得税ほどの税率の差がありません。損失の繰り越しもできるため、ある程度稼げるようになってきたら法人化のメリットが大きくなるでしょう。

法人化して暗号資産取引をするメリット

法人化して暗号資産取引を行うことで得られるメリットとして、主に次の3つが挙げられます。

  • 税負担が下がる
  • 損失を繰り越せる
  • 経費計上しやすい

順番に解説します。

メリット1.税負担が下がる

所得が一定以上になると、個人よりも法人の方が税負担は軽くなります。最大税率を比べてみると、法人税は個人税の約半分で済むことがわかります。

種別 最高税率
個人 45%
法人 23.2%

法人の場合、資本金が1億円を超えていれば税率は一律23.2%です。資本金1億円以下の場合、800万円以下までは15%で、超える部分は23.2%が課税されます。一方で個人の所得税率は7段階の設定があり、5%から45%と幅広いです。

自身の所得金額にかかる税率を確認し、法人税の方が低い場合は法人化を検討してみるとよいでしょう。

参考:国税庁「法人税の税率

メリット2.損失を繰り越せる

法人は事業で損失が出ても、10年間繰越控除を受けられます。個人だと原則として損失繰り越しはできません。

法人と個人の課税対象の違いを具体的に比較してみましょう。

年数 取引結果 課税対象額
1年目 -1,000万円 法人:なし
個人:なし
2年目 200万円 法人:なし(-800万円)
個人:200万円
3年目 -2,000万円 法人:なし(-2,800万円)
個人:なし
4年目 3,000万円 法人:200万円
個人:3,000万円
5年目 4,000万円 法人:4,000万円
個人:4,000万円

3年目に大きな損失を出したものの、4年目に大幅な利益を上げたケースを考えてみましょう。この場合、法人では繰越欠損金により課税対象額を200万円に抑えられますが、個人の場合は3,000万円全額が課税対象となってしまいます。

投資経験が浅い場合や、市場が急落した際は予期せぬ損失を被るリスクがあります。法人であれば過去の赤字を繰り越して大きな利益と相殺できるため、法人化は税務面で大きなメリットがあると言えます。

経費計上しやすい

法人の場合は本業に必要な支出はすべて経費にできますが、個人だと取引手数料など一部の項目しか経費計上できません。法人が経費にできる例として、次のものが挙げられます。

  • 給与
  • 家賃
  • 交通費
  • 通信費
  • 消耗品費

ただし、経費にできない部分を誤って計上してしまうと追徴課税されるリスクがあります。不安な場合は税理士に相談し、税務調査時に慌てることのないようにしましょう。

法人化して暗号資産取引をするデメリット

暗号資産取引で法人化する際のデメリットについて解説します。

デメリット1.設立費用がかかる

法人化には各種手数料がかかります。以下の表で、一般的に設立されることが多い株式会社と合同会社の例を見てみましょう。最低でも株式会社で200,000円、合同会社でも100,000円はかかります。

種別 株式会社 合同会社
収入印紙代 4万円 4万円
公証人手数料 3万円
登録免許税 15万円 6万円
合計 22万円 10万円

収入印紙は、定款に貼付するために必要なものです。電子定款にすれば費用がかかりません。

また、株式会社の場合は定款を公証人に認証してもらう必要があります。公証人手数料は資本金額によって異なり、最低でも30,000円です。合同会社だと定款の認証が不要なため、費用を抑えられます。

登録免許税は資本金×0.7%で算出されますが、最低支払額がそれぞれ決まっています。株式会社の場合は150,000円、合同会社だと60,000円です。

上記以外にも、資本金や消耗品費などの準備が必要です。得られる利益と比較して法人化すべきかどうか検討しましょう。

管理費用がかかる

会社の運営には設立時だけでなく、継続的な費用が発生します。

  • オフィス賃料
  • 住民税均等割(年間5万円~)
  • 社会保険料(従業員がいる場合)

安定した収益が見込めない場合、これらの固定費が経営を圧迫する可能性があります。また、事業を終了する際には清算手続きや費用も必要となります。そのため、事前に収支計画を慎重に検討することが重要です。

法人化の方法・必要な手続き

法人化の流れは簡単にまとめると次の3ステップです。

  • 定款の作成・認証
  • 設立の登記
  • 関係機関へ届出

このほかにも、資本金の払い込みや印鑑など消耗品の準備、設立時費用の会計処理といったさまざまな手続きが必要です。すべて自分で行うのが不安な場合は、会社設立業務に精通した行政書士や司法書士に手続きを依頼する方法もあります。

ステップ1.定款の作成・認証

法人化するには、会社の基本的な事項を明らかにした定款を作成する必要があります。定款作成時は、絶対的記載事項を漏らさないようにしましょう。どれかひとつでも記載が欠けていると定款は無効になります。

会社法で定められている絶対的記載事項は以下のとおりです。

  • 商号(会社名)
  • 事業目的
  • 本店所在地
  • 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
  • 発起人の氏名または名称及び住所
  • 発行可能株式総数

このほか、定款に定めなければ効果が発生しない「相対的記載事項」や、定款で定めなくても効果が発生する「任意的記載事項」があります。

定款の作成後は、公証人役場で認証を受けます。認証は株式会社の場合のみ必要で、合同会社なら不要です。

ステップ2.設立の登記

定款を作成したら、本店所在地を管轄する法務局へ登記申請を行います。直接書類を持参・郵送するだけでなく、オンライン申請も可能です。

登記の申請には登記申請書のほか、定款や出資の払い込みを証明する書面といった添付書類が必要です。漏れがあると手続きが進まないため、提出前によく確認しましょう。

問題がなければ10日前後で登記は完了し、会社が設立できます。

関係機関へ届出

会社設立後は、設立の届出や健康保険に関する書類を各種機関へ提出する必要があります。関係機関と必要な書類の例として、次のようなものが挙げられます。

機関 届出書類
税務署 -法人設立届出書
給与支払事務所等の開設届出書など
都道府県税事務所 法人設立届出書
年金事務所 健康保険・厚生年金保険新規適用届

このほか、従業員を雇用した場合は労働基準監督署やハローワークにも届出が必要です。それぞれ提出期限が定められているため、あらかじめ確認しておき失念しないようにしましょう。

暗号資産取引で法人化するタイミング

一般的には利益が800万円前後になると、法人化を検討するタイミングと言われています。個人と法人の実効税率を比較してみましょう。

種別 税率
個人 所得のうち年695万円から899万円まで:23%
所得のうち年900万円から1,799.9万円まで:33%
法人(資本金が1億円以下の場合) 所得のうち年800万円以下:15%

所得のうち年800万円を超える部分:23.2%

例えば所得が800万円だった場合、具体的な税額は次のとおりです。約3割の税負担を軽減できています。

個人:800万円×23%=184万円
法人:800万円×15%=120万円

所得が1,000万円の場合はさらに節税効果が高くなり、税負担は半分程度です。

個人:1,000万円×33%=330万円
法人:(800万円×15%)+(200万円×23.2%)=166.4万円

法人が暗号資産の取引で得た所得に課税される法人税の税率は、15%〜23.2%となります。ただし、実質的な所得負担率である「実行税率」は、これに10%程度の住民税や事業税などが加算されるため、法人の実際の税率は約25%〜35%となります。

法人は含み益も課税される点に注意

個人の場合は利益を確定した段階で課税されますが、法人は決算時に含み益があれば課税対象となります。

暗号資産で法人化するときの注意点

暗号資産で法人化する際の注意点は、次の3つです。

  • 決算時の含み益と売却時の確定利益の両方が課税対象
  • 登記は申請から完了まで10日程度かかる
  • 金融機関によって口座開設審査基準が異なる

個人で投資するときとは異なる注意点があります。順番に解説します。

注意点1.法人は決算時の含み益と売却時の確定利益の両方が課税対象

個人の場合は利益を確定した段階で課税されますが、法人は決算時の含み益と売却時の確定利益の両方が課税対象となります。 含み益はあくまで見込みであり、換金するまで利益は確定していません。そのため、決算時には含み益と評価されても、その後暗号資産の価値が暴落すれば含み損に変わります。 結果として、手元に利益がないのに税金は払わなければいけない状況に陥る可能性があります。

注意点2.登記は申請から完了まで10日程度かかる

定款の作成や登記の申請など、法人化にはさまざまな手続きがあります。登記は申請から完了まで10日程度かかり、万全に準備していても一定の期間が必要です。事前に準備しておかなければさらに時間がかかり、節税効果が弱まるリスクとなります。

また、法人化の手続きはいつでもできます。暗号資産への投資を始めてみて、利益が大きくなったタイミングで切り替えることも可能です。

ただし、年度途中で切り替えた場合は個人・法人それぞれの確定申告が必要です。例えば7月1日に法人化した場合、1月から6月までの所得は個人分、7月以降の所得は法人分と、切り分ける必要があります。

切り替えのタイミングは特に計上漏れが生じやすく、延滞税などが加算されるリスクとなります。年度途中で法人化する場合は、帳簿の管理を慎重に行いましょう。

注意点3.金融機関によって口座開設審査基準が異なる

法人化して暗号資産の取引を行うためには、法人名義の口座が必要です。金融機関によって審査基準は異なるため、事前に複数の金融機関の要件を確認することが推奨されます。また、事業計画の詳細な策定も重要になります。

暗号資産取引で法人化する際のよくある質問

暗号資産取引の法人化に関する主な質問について解説します。

法人化する際の会社形態は?

会社形態は、主に株式会社と持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、事業計画に応じて選択する必要があります。

株式会社:

  • 社会的信用が高い
  • 資金調達がしやすい
  • 設立・維持コストが比較的高い
  • 法定の機関設計が必要

合同会社:

  • 設立・維持コストが比較的低い
  • 組織設計の自由度が高い
  • 小規模事業に適している

含み益がある状態で個人から法人に譲渡する場合は?

暗号資産を個人から法人へ移す際、含み益は実現したものとして個人側で課税されます。また、時価と譲渡価額に差がある場合、法人側で受贈益として課税される可能性があります。

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会社所在地 東京都港区六本木5丁目2番1号 ほうらいやビル4F
設立年月日 2016年12月27日

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まとめ

法人化は節税効果があるものの、設立や維持には費用が別途かかります。税負担だけに着目せず、その他の事情も考慮して法人化を検討しましょう。

また、法人化の手続きは煩雑で、専門知識がなければスムーズにいかない場合も多いです。業務に精通した司法書士や行政書士に手続きを依頼したり、税理士に相談したりするのもおすすめです。

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