#44:どのようにMEVの独占を防ぐのか?:MEV-Boost

今週もマネックスクリプトバンクから、Web3.0界隈の動きをお伝えします。

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注目トピックス解説

UniswapがiOS向けウォレットアプリをリリース

コメント:宮本

分散型取引所(DEX)を開発するUniswap Labsは4月14日、iOS向けウォレットアプリとなる「Uniswap Wallet」をApp Storeにて公開しました。
Uniswapは分散型取引所(DEX)のひとつで、Ethereum上で動作するオープンソースプロトコルです。今回リリースされたUniswap WalletはUniswapの開発元であるUniswap Labsが開発したウォレットアプリで、MetaMaskと同じような自己管理型ウォレットとなっています。
Uniswap Walletについての発表そのものは3月4日に行われていましたが、Apple側がApp Storeへの公開審査を保留したために、これまでは一部対象者のみへの早期リリースに留まっていました。AppleはApp Store Reviewガイドラインにて、暗号通貨の取引や送金といった機能をアプリで取り扱う場合には適切なライセンスや認可を取得した国・地域に限定してアプリを公開しなければならないと定めています。Uniswap Walletを公開する国・地域に問題がないかどうか精査する必要があったことが、公開審査に時間がかかった主な要因であると考えられます。
Uniswap WalletはEthereumやPolygonなどに加えてOptimismやArbitrumなどのレイヤー2に対応しており、アプリ内で対応する暗号資産間のスワップを行うことができます。また、時価総額や価格チャートを表示する機能、保有しているNFTを閲覧する機能、MoonPayを利用した暗号資産の購入機能なども実装されています。
MetaMaskなどの他の自己管理型ウォレットアプリと比較した際の優位性としては、シードフレーズを暗号化した上でiCloudに保存する機能が実装されていることや、ソースコードがオープンソースとなっておりGitHub上に公開されていること、Trail of Bitsによるコードの監査を受けていることなどが挙げられます。中でもシードフレーズをiCloudに保存する機能は面白く、これまで手動でメモしておかなければならなかったシードフレーズの管理が簡単になるということはUniswap Walletを利用する動機になり得ると考えられます。
Android版のリリース予定については未定となっています。サポートされる国・地域の拡充も含めて、今後の展開に期待したいところです。

資産担保型証券ファンドのトークン化

コメント:宗田

イタリアの資産運用会社のAzimut Groupは、フランスのBNPパリバとイギリスのAllfunds Blockchain と共同でルクセンブルクの投資ファンドAZ RAIF Iのユニットをトークン化したと発表しました。このファンドは、銀行が発行する不良債権から破産手続きによる債権、公共料金の未払いなどといった裏付け資産を持つ資産担保証券(ABS)の多様なポートフォリオに焦点を当てています。Azimut Groupは2021年に資産運用会社として初めて中小企業向けローンのポートフォリオに連動したセキュリティトークンを発表しておりこの分野におけるパイオニアと言えるかもしれません。
この新しい取り組みの目的としては分散型台帳技術の効率性を評価し、複雑な送金注文の処理を容易にすることにあります。またさらにAll funds Blockchainのノウハウやネットワークを活用することで、関係者がすべての取引をリアルタイムで追跡することができ、透明性を高めることも目的としています。資産担保型投資の発行と管理には4~8の仲介業者が関与し、証券化やその他の資金調達にかかるコストは年間300億ドルを超えるとも言われています。そのため透明性・効率性の向上はこの分野において非常に重要な課題となっています。また、関連するプロジェクトもいくつかあり、アメリカのスタートアップIntainがAvalanche上でABSのトークン化サービスを開始しており、三菱UFJイノベーション・パートナーズも出資するアメリカのFigure technologiesもProvenanceブロックチェーンを使用してABSを発行しています。
日本証券業協会によると、日本における証券化市場は金融危機を受け2007年から2014年までは縮小傾向にありましたが、その後は徐々にですが回復傾向にあるようです。日本におけるトークン化の取り組みとして不動産のトークン化が徐々に広まりつつありますが、いまだ資産担保証券のトークン化の取り組みはないようです。収益性など課題はあるかもしれませんが、今後このようなプロジェクトが日本でも広まっていくかどうか要注目です。

Rippleがビジネス向けの流動性ハブをローンチ~影を落とすSECとの対決~

コメント:中坪

ブロックチェーンを利用した国際送金効率化サービスなどを供給するフィンテック企業Ripple社は、先週、ビジネス向けと流動性ハブをローンチしました。Rippleといえばon-demand liquidity(ODL)と呼ばれる、Rippleのデジタル通貨XRPを利用した国際送金を高速化、低コスト化するサービスが有名ですが、今回の流動性ハブとは独立したスタンドアローンな流動性解決策となっており、暗号資産取引所をはじめとするさまざまなマーケットメーカーからデジタルアセットを提供することを可能にしています。
具体的には、利用する企業パートナーが必要に応じて、複数種類の通貨の流動性プールから通貨を調達できます。これにより、企業は流動性の調達や取引を実行する際に大きなポジションを事前に用意する必要性がなくなります。また単一の場所からデジタル資産にアクセスできるようにすることで、複雑な複数の流動性調達プラットフォームの管理が不要となり、業務の効率化が可能になります。さらに、サービス上でのデジタル資産価格を適切なものに固定することで、マーケットの不安定性や価格変動といった企業にとってのデジタルアセットのボトルネックとなるべき部分を解消するという、企業にとことん寄り添ったサービスとなっています。
ここで注目したいのが、この流動性ハブが取り扱う通貨の種類です。現時点では米ドル、ビットコイン、イーサリアム、イーサリアムクラシック、ビットコインキャッシュ、そしてライトコインの6種類が流動性プールに提供されています。しかし、Rippleの主軸通貨であるXRPは今回のローンチにおいては言及されませんでした。XRPはRippleネットワーク上や、先述のODLにおいて送り元機関の通貨を送り先機関に決済・送金する際に使われる中間通貨であり、Rippleのサービスには欠かせないものとなっています。さらに今回の流動性ハブサービスのパイロット段階では提供するデジタル資産の中にXRPも言及されてたのです。
このXRPを流動性ペアから除いたということには、以前のメルマガでもお伝えしたRipple社と米国SECとの対決が関係していると考えられます。SECはXRPが証券に該当するとし、Ripple社が非登録証券を販売したとして訴えを起こしており、対してRipple社はSECの主張を全面的に否定しているという状態にあります。もしXRPが証券性があると判断された場合、Ripple社にとってだけでなくクリプト業界全体への大きな打撃となります。
最近、この法廷闘争についても動きがありました。裁判所側がビットコイン、イーサリアム、XRPに関するSEC内部で議論した際の文書を提出するように命じたのです。これまでSEC側は当該文書は訴訟とは無関係として提出を拒んできたことから、この文書が公開されることでSECは明確な根拠なしにRippleを訴追したことが明らかになるのではないかと、Ripple側に有利に働くとされています。
とはいえRipple側としてもこの2年以上続く裁判がどちらに転がるかはまだ不透明であり、だからこそリスクのあるXRPをペアから外したと予想されます。最近はCBDCにも力を入れているRipple。すでに複数の国の中央銀行と協力体制を築いていますが、規制する側との関係を先んじて構築するという思惑も垣間見えます。今回の裁判の行方はもちろん、XRPを使わない流動性ハブがODLに対してどのようなポジションをRippleのサービスの中でとっていくのか注目したいと思います。​​​​​​​

注目の資金調達

EOS Network Foundation
  • 概要:ブロックチェーンコミュニティ財団
  • 調達額:6000万ドル
  • ラウンド:-
  • 主な出資者:DWF Labs

パブリックブロックチェーンEOSのコミュニティ財団。EOSは、検証ノードを限定的に割り当てるDPoSコンセンサスを採用するスケーラブルなブロックチェーンで、初期の頃のイーサリアムキラーとして知られる。当初はBlock.oneが開発を手掛けていたが、現在はコミュニティ主導に移行している。

Sei
  • 概要:L1ブロックチェーン開発
  • 調達額:3000万ドル
  • ラウンド:シリーズA
  • 主な出資者:Jump Crypto、Distributed Global、Multicoin Capital

DeFiアプリの開発に特化したレイヤー1ブロックチェーン。パブリックテストネットを公開中。HPアクセスできず詳細不明。

Mayhem Studios
  • 概要:インドのモバイルゲーム開発スタジオ
  • 調達額:2000万ドル
  • ラウンド: シリーズA
  • 主な出資者: Sequoia Capital

インドのMobile Premier LeagurがAAAモバイルゲームを開発するために設立したゲームスタジオ。最初のゲームタイトルとして「Underworld Gang Wars」というバトルロイヤルゲームをリリースした。

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注目のWeb3関連サービス

どのようにMEVの独占を防ぐのか?:MEV-Boost

MEVとはなにか?

MEVという言葉をご存知ですか?

MEVは「maximal extractable value」の略語で「最大抽出可能価値」と訳されます。元来は「miner extractable value」という言葉であり、マイナーバリデーターがトランザクション手数料を含め、ブロック報酬の他に得られる利益のすべてを意味していました。

しかし、DeFiの発展とともに生じた「フロントランニング」への対処を巡る議論が活発化するなかで、MEVは「マイナーやバリデーターが自らの収益を最大化しようとアレコレすること」という意味合いでも使われるようになっていきました。

MEVは直感的に理解しにくい概念であり、日常的な語法とは異なる言葉が使われるため、ここではMEVのことを「マイナーやバリデーターがブロックチェーンやスマートコントラクトの仕様を巧みに利用して人様の取引に便乗して得る利益」と定義します。厳密な定義とは異なるかもしれませんが、入門の観点ではこのような定義で十分だと思います。

MEVはどのようにして行われるのか?

MEVの具体的なプロセスについて説明します。

ブロックチェーン上の取引において、ユーザーがトランザクションを送信する際には、ガス代を支払ってバリデーターにトランザクションの承認を依頼します。この時、未承認のトランザクションはmempoolと呼ばれる領域に送られます。

バリデーターはmempoolから未承認のトランザクションを収集して処理します。この際、バリデーターはどのようなトランザクションを優先的に処理するかを決定します。一般的に、バリデーターはより多くのガス代を支払っているトランザクションを優先的に処理する傾向があります。これは、バリデーターが収益を最大化するためであり、より多くのガス代を支払っているトランザクションは優先的に処理されることになります。

DeFiの画面で「High Speed / Normal Speed / Low Speed」というオプションが表示されているのを見たことがあるかもしれません。これらのオプションは、ユーザーがトランザクションを送信する際に支払うガス代を決定するものです。High Speedを選択した場合、より多くのガス代を支払うことになりますが、その分だけトランザクションがより早く処理される可能性が高くなります。しかし、一部のバリデーターはこの仕様を悪用し、フロントランニングを行うことがあります。

フロントランニングとは、他のユーザーがmempoolに送信したトランザクションを監視し、同じトランザクションを先に送信し、より多くのガス代を支払って優先的に処理されるように仕向け、自分に有利な市場を一時的に作り出し、そこから追加の収益を稼ぎ出すことを指します。

例えば、あるユーザーが1ETHで100DAIを購入するトランザクションを送信したとします。悪意のあるバリデーターは、同じトランザクションを自分で送信し、より多くのガス代を支払って優先的に処理されるようにします。その結果、DEX上のレートは1ETH=99DAIに変化し、ユーザーのトランザクションが処理されるときにはこのレートが適用されます。そのため、ユーザーは本来100DAIを手にするところ、99DAIしか得られません。

さらに、ユーザーの取引が処理されたことで、DEX上のレートは1ETH=98DAIに変化します。この時、バリデーターはすぐに100DAIを売却することで、1.02ETHを手にすることができ、差し引き0.02ETHのMEVを稼ぎます。

このように、フロントランニングを行うボットを稼働させることで、バリデーターは純粋なバリデーションのオペレーション以外から生じるMEVを得ることができるわけです。

バリデーターは経済合理性に基づいて、プロトコルの仕様の範囲内で行動しており、彼らが悪いプレイヤーであると断罪することはできません。しかし、DeFiのエコシステム全体を見ると、MEVの独占行為によって取引の公正性が損なわれていることは事実であり、公正性だけでなく、ガス代の高騰やネットワークのトラフィック量の増加(混雑)という別の問題も生じています。このため、MEVを独占しようとするボットへの対策が様々な形で取られています。

MEVの独占を解決する方法: MEV-Boost

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今週のビットコイン相場

BTCはイベントを通過し買いが一層強まる可能性、ETH指標をしばらく注視

金融市場では5月の米FOMCにおける追加利上げの予想が強まっている。インフレ鈍化の兆しはみられるものの、前回議事要旨と経済指標の内容などからあと1回の利上げが適切との見方が広がっている。今後、当局者の発言によって市場が揺さぶられる可能性はあるが、利上げ停止時期の目途がついたことで、来月にかけてリスクオンの買いが強まることは考えられる。また、景気後退懸念がリスク資産相場の重しとなっているが、ビットコインについては金に並んで逃避的に買われる傾向があり、両面での買いによって堅調に推移する可能性が高いだろう。来週は日欧の消費者物価指数の発表があり、世界的なインフレ鈍化を印象づける上で内容を注視したい。

イーサリアムの上海アップグレード後の売りはまだ観測されておらず、今後しばらくはステーキング資産総額(Total Value Staked)の推移をウォッチする必要がある。一旦はイベントを通過し、暗号資産市場でもリスクオンが強まる中でアルトコインへの資金流入が増える可能性がある。その中でビットコインも価格を伸ばすことは考えられるが、直近49%まで上昇しているビットコインドミナンスが急低下した際には過熱感による売りを警戒した方がいいだろう。総じて地合いは良いと言えるが、IMF報告書でステーブルコイン規制の必要性が指摘されたように、規制動向のブレーキが入る懸念は残っている。

直近上値として2021年7月と2022年1月の底値付近であるBTC=439万円(33,000ドル)が意識されるが、同水準では相応に上値が重くなることが予想される。直近下値としては上昇前のレンジとなるBTC=372万円(28,000ドル)を意識する。

※1ドル=133.00円で換算(2023年4月14日執筆時)

今週のオンチェーン指標:Net Transfer Volume from/to Exchange

概要

Net Transfer Volume from/to Exchangeは、Exchange Inflow Volume(EIV:取引所アドレスに入金されたコインの総量)からExchange Outflow Volume(EOV:取引所アドレスから出金されたコインの総量)を差し引いた値です。

EIVは、外部ウォレットから取引所アドレスへの入金を指し、その量が増えるとユーザーが短期的に売りに動いていることを示唆します。一方のEOVは、取引所アドレスから外部ウォレットへの出金を指し、その量が増えるとユーザーが長期保有に動いていることを示唆します。

Net Transfer Volume from/to Exchangeが正の時、すなわちEIV>EOVの時(図:青色)は短期的に市場の売りが強まる傾向にあります。逆にNet Transfer Volume from/to Exchangeが負の時、すなわちEIV<EOVの時(図:赤色)は相場が底打ちしている可能性を示しています。

図のように2021年以降のビットコインの値動きとNet Transfer Volume from/to Exchangeを照らしてみてみると、青赤のシグナルがともに12000BTC付近に迫った時に相場の下落と底を捉えています。

青色シグナル
2021年5月:テスラBTC決済中止および中国暗号資産規制による下落
2022年5月:テラショックによる下落
※2021年11月の下落は先物主導の調整売りであったため、オンチェーン上の反応が大きく表れなかったものと思われます。

赤色シグナル
2022年6月:テラショック後の底
2022年11月:FTXショック後の底

このようにNet Transfer Volume from/to Exchangeは暗号資産の現物保有に影響を及ぼす大きな事件に対しては適切に反応するように見えます。実際、バンク・オブ・アメリカがこの指標を用いて直近のビットコイン相場を分析しており、伝統的な金融機関にも注目される指標となっています( 参考)。

※ここで紹介するオンチェーン指標は参考指標にすぎず、資産の売買を推奨するものではありません。投資判断に活用する場合にはご自身の判断でお願いいたします。

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