単純電力分析攻撃(Simple Power Analysis, SPA)は、セキュリティが重要な電子機器やシステムに対する攻撃手法の一つです。この攻撃は、デバイスが暗号処理を行う際に消費する電力を分析することで、秘密情報(例えば暗号キー)を盗み出すことを目的としています。
暗号化されたデータを安全に扱うためには、暗号キーと呼ばれる秘密の情報が必要です。このキーは、データを暗号化(読めない形に変換)したり、暗号化されたデータを復号化(元の読める形に戻す)する際に使用されます。暗号キーが漏洩すると、悪意のある第三者が暗号化されたデータを読み取ることができるようになり、プライバシーやビジネスの秘密が危険にさらされます。
単純電力分析攻撃は、物理的なアクセスが可能な状況で行われることが多いです。攻撃者は、デバイスが暗号処理を行っている間に消費する電力を測定するための機器を接続します。暗号処理は複雑な計算を含むため、処理の内容によって消費する電力量が微妙に変わります。例えば、データを暗号化する際に特定のビットが1の場合はより多くの電力を消費し、0の場合は少ない電力を消費するといった特徴があるかもしれません。
攻撃者は、このような電力消費のパターンを注意深く分析することで、どのような計算が行われているかを推測します。そして、その計算に関連する暗号キーの一部や全体を推定することが可能になるのです。単純電力分析攻撃は、デバイスが行う特定の操作を一つ一つ観察して情報を得るため、比較的単純な手法とされています。
これに対して、差分電力分析攻撃(Differential Power Analysis, DPA)というより高度な攻撃手法も存在します。DPAは、多数の電力消費データを統計的に分析して、暗号キーを抽出する手法です。DPAはSPAよりも複雑なデータ処理を要するため、より高度な技術と計算能力を必要としますが、より強力な攻撃手法とされています。
電力分析攻撃を防ぐためには、暗号処理デバイスを設計する際に、電力消費のパターンが外部から分析されにくいようにする工夫が必要です。例えば、デバイスが一定の電力を消費するように操作をランダム化する、電力消費をマスキングするための追加の回路を導入するなどの対策が考えられます。
単純電力分析攻撃は、デバイスの物理的なセキュリティを考える上で非常に重要な概念です。暗号技術だけでなく、電子機器の設計段階からセキュリティを考慮することが、情報漏洩を防ぐためには欠かせません。